日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第7回研究大会 開催報告
【シンポジウム1 】
「地域医療構想の徹底検証 」
座長:小山信彌(東邦大学医学部 医療政策・渉外担当特任部門 教授)
小山秀夫(兵庫県立大学大学院 特任教授)
演者:①なぜ地域医療構想や地域包括ケアが必要とされているのか
今村知明(奈良県立医科大学 教授)
②地域医療構想における医療機関再編について ~青森県地域医療構想の経験を踏まえて~
一戸和成(京都市保健福祉局健康長寿企画課 担当課長)
③今後の社会的背景を踏まえた病院戦略
石川賀代(HITO病院 理事長)
〇小山(信):今回の研究大会のテーマは「地域医療構想と地域包括ケアの徹底検証」ということで、シンポジウム1では、最初の「地域医療構想」について徹底検証したいと思います。では最初に、今村先生、よろしくお願いいたします。
①なぜ地域医療構想や地域包括ケアが必要とされているのか
〇今村:私からは、地域医療構想と地域包括ケアの総論的な部分について、そして現在、国においてどのような動きがあるのかという点を中心に、「なぜ地域医療構想や地域包括ケアが必要とされているのか」というテーマで、お話をしたいと思います。また、われわれ研究班がどのような取組をしているかという点についてもお話しをしたいと考えております。
私はこれまで、いろいろとややこしい問題に関わってまいりましたが、現在、最もややこしいと思われるのが2025年問題であると考えます。これは本日のテーマの主眼でもあると思います。
どんなややこしい問題かと申しますと、既に皆さんご存知のとおり、2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、医療・介護サービスの需要が著しく増大します。すなわち、高齢者人口が3,600万人に増加します。慢性的な疾患を抱える高齢者や要介護人口も約1.5倍に増加します。
では、医療従事者、介護従事者も1.5倍に増やさないといけないのか。その間に人口は減っていくのです。働いているお医者さんや看護師さんなど総人口は減っていくのに、患者さんだけは増えていくという状態になっていきます。
では、お医者さんを増やせばいいんでしょうか? 看護師さんを増やせばいいんでしょうか? そもそも予算はあるんでしょうか? 人も足りない。お金も足りない。このままでは日本が破綻するのではないかという危機感があります。これを解決するための方法として、地域医療構想と地域包括ケアの両面からのアプローチ、この2つの相互関係で施策を打たなければならないという状況にあると言えます。
まず、地域医療構想から説明したいと思います。現在、病院の機能というのは法律上、1つの機能しかありません。それを4つにして機能分化をきちんと進めていけば現在の病床数を増やさなくても、お医者さんの数を増やさなくても対応できるのではないかというのが地域医療構想の基本的な考え方であると思います。
現在、急性期を中心に動いている医療提供体制をなんとか慢性期側にシフトさせていくことができないか。財務省的な言い方をすれば、「7対1に集中しすぎているので、もう少し10対1とか15対1のほうにシフトできないか」という話なんだろうと思います。
また、違った視点から見ますと、医療そのものも変わっていかなければいけない状況にあるのではないでしょうか。65歳以下の患者さんに対する医療というのは、治して在宅復帰させるということが中心であると思いますが、75歳を超えてきたら完全に治して在宅復帰させるというのは非常に難しい。病気を抱えたまま、ご自宅に帰す。病気と共に生きる、支えていく。そして最終的に看取りをするという医療やケアが中心になってくる。これは急性期医療における専門性とは全く違う専門性が必要です。
今までは「病院完結型」と言われる医療でありました。病院で病気を治して、治ってから家に帰っていただく。しかし、これからは治る前に家に帰っていただけなければいけない。例えば、インシュリンを打てば状態が改善するだろうという患者さんがいた場合に、インシュリンを自分で打てないと退院できないということになります。しかし、飲み薬のインシュリンであれば自宅でも療養生活を続けることができる。こうした場合にどちらを選択するのかという医療は、急性期の医療とは違う専門性が必要になってきます。
こうした医療を地域完結型で支えていくためにはどうすればいいのでしょうか。こうした考え方を背景にして、地域包括ケアという考え方が生まれてきているのだろうと思っています。こうした医療やケアを進めていくためには、在宅医療の充実が不可欠になってきます。ところが現在、在宅医療の環境がなかなか整っていない状況にあります。それを象徴しているのが、亡くなっている場所であると思います。この10年ほどの間に110万人ほどの死亡者数がおりますが、この死亡者数が170万人ぐらいまで増えます。
では、これだけの増加に対して在宅医療が対応できるのかどうか。とてもそれは難しいのではないか。在宅医療を進めるためには24時間の訪問看護が必要になります。しかし、訪問看護の数が現状、足りているとは言えません。訪問看護ステーションの数が足りないだけではなく、訪問看護を担う看護師の数も足りていない状況にあります。
現在、老老介護が増えています。一方が亡くなるということは独居になるということです。独居になったあとで、本当に家で看取ることができるのか。そういうことを考えると非常に難しいと言わざるを得ません。そもそも、「自宅で看取る」という文化が失われている状況にあります。孤独死が増えている状況の中で、在宅で看取る地盤が揺らいでいる状況であると言えます。
今、医療サイドからは1人の患者さんを総力戦で支えるという発想のもとに訪問診療もするし、在宅の介護サービスも出すし、急変したら病院で診ていただくというような総合的な支援対策を行政をあげて、地域の医師会もあげて作り出そうとしていると理解しています。
診療報酬上も多くの加算が付いており、基本的には在宅で診ていただいて、急変したらすぐに病院で診てもらえるようにするための加算が付いています。入院した瞬間から、あるいは入院する前から退院支援を進めていって、少しでも早く家に入ってもらう。早期に在宅復帰できると点数も高く付く。そして急変したらまた病院に入る。それを繰り返していく中で最後まで家で看取っていただければ、ものすごく点数が高くなる。このような形で診療報酬上の誘導がなされている状況です。
では、在宅サービスの現状はどうでしょうか。今までは診療所が中心となっておりましたが、訪問診療を行う病院の数も増えてきています。在宅支援診療所の整備も進められてはおりますが、24時間365日の在宅サービスを1人の医師で対応するには限界があります。「何時間起きていられますか」という、まさにスーパーマンでなければなかなかできません。
これに対して、病院では複数の医師が交代で対応することができるので、病院でも在宅支援が注目されており、在宅支援に乗り出す病院が増えてきていると思います。そうした中で、地域包括ケア病床も在宅支援の役割を担っていると言えると思います。
このような形で地域包括ケアシステムが進められておりますが、特に医療と介護の連携が重要になってきます。ただ、現場においては医療と介護の垣根が非常に大きくて、これを超えることがなかなかできない。私も20年近くこの問題に関わっておりますが、この2つは文化の違いではないかと痛感しております。まず、言葉が通じない。同じ言葉でも定義が違う。やり方も違う。
最近、研究班でよく取り上げられているのですが、「とろみ食」というものがあります。とろみ食は、医療の世界と介護の世界で概念が違います。急性期の病院から回復期の病院に行く時点で、既にとろみ食の定義が違う。医療界から介護界に行く段階でも、当然のように違うのです。おそらく、日本でものすごくたくさんのとろみ食が出ていると思うのですが、言葉の違いは現物の違いにつながりますので、まず言葉を医療と介護の間で統一すべきであると思います。文化を越える必要性があります。
さらに付け加えますと、医療側から見た場合に介護の言葉は非常に難しい。医療の場合は1つの病院の中にさまざまな機能があるのですが、介護においては施設単位で機能が違います。特養と老健とグループホームの違いをどれだけの医療者さんが分かっているかという問題もあります。
そもそも、「在宅型」「施設型」と言われても、病院の側にはそういう概念がないので分からないと思います。特養と老健について言えば、特養は介護老人福祉施設、そして老健は介護老人保健施設ですが、この2つの言葉を言われて特養と老健だと区別できる人はどれだけいるでしょうか。
私たちは日頃、「特養」「老健」と言っていますが、正式な文書には「介護老人福祉施設」「介護老人保健施設」という言葉が使われております。これら2つがどのような機能を持っていて、どのように違うのかということを医療職種の人たちが十分に理解していないのに、患者さんの状態に合わせて介護施設に適切に送ることが果たしてできるのでしょうか。
もう1つ、この問題を大きく難しくしているのは高齢者の増加がピークアウトするということです。これからどんどん高齢者医療や介護の人数が増えていきますが、2040年になりますとピークアウトします。ですから今、お医者さんや看護師さんを増やしましょうと言っても今から20年後、25年後には余ってしまうという問題があります。
日本全体でこうした問題が起こるわけですが、地方と都市部では状況が異なります。地方ではピークアウトがすでに始まっています。患者さんが減っています。これに対して都市部はピークオンしていきますので、これから患者さんが急激に増えていきます。すなわち、これから余るから不要になるという地域と、これから不足するから増やさなければいけないという地域が混在しています。
こうした状況の中で、医師や看護師を増やしますか、あるいは施設をどんどん作らなければいけないかという選択を迫られておりますが、この先々のことを考えますと、無駄になるから今のお医者さんや看護師さんの数でなんとか乗り切りましょうというのが、この地域医療構想と地域包括ケアシステムの本質なんだろうと思っています。
そのほか、医療と介護の根本的な差を申しますと、介護の世界では施設がつぶれるということが大きいわけです。例えば、訪問看護ステーションがどんどん作られております。1年間に160件ほど訪問看護ステーションが新たに作られていますが、 そのうち50件はつぶれています。民間企業の場合には1年間でほぼ半数がつぶれますから、民間企業よりは生き残っているのですが、1年間に3分の1ぐらいつぶれてしまう。こうした文化は医療にはない。ですから、医療界ではどんどん訪問看護ステーションを作ることに熱意を注いでおりますけれども、皆さん、燃え尽きて帰ってくるという状況がございます。
こうした中で、限られた病床で機能分化をすれば、なんとかこの状況を乗り切れるのではないかというのが地域医療構想の考えです。
実は、3年ほど前に医療界が大混乱したことがあります。財務省が出した資料によりますと、現在の病床をきっちりと4つに分割したら現在よりも30万床ぐらい少なくても済むのではないかという発表がありました。これに対して医療界は憤りを示したわけです。これから患者さんが1.5倍に増えるかもしれないという時に、30万床も余るというわけですから、本当ですかということですよね。
では、なぜこんなに30万床も減らすことができるのか。例えば医療区分1の患者さんの7割を在宅に移行していただくという計算をしたから、このような数字がはじき出されたわけです。では、医療区分1の患者さんはどのくらいいるのでしょうか。要介護度でいうと大体4から5です。このような患者さんを在宅に帰したら、どのようなことになるのかと医療の方々は思うわけです。1週間ぐらいで死んでしまうというわけです。ですから、医療区分1の患者さんを全て在宅に、ということは考えられないことでしょう。
しかし、これは医療の側から始まった議論であって、本来であれば介護の側でどのくらいの患者さんを受け止められるかという議論が先にあって、それから医療区分1の患者さんをどれだけ移行できるかという議論になるのが本来でしょう。ところが、最初に医療区分1の患者さんの7割を在宅に移行させるという話が出てしまったので、そんなことはできるはずがないだろうということで揉めた経緯があります。
現在でも、やはり医療区分1の患者さんの7割を在宅で受け止められるとは思いません。確かに、介護施設は増えていますので、ある程度は吸収できるでしょう。しかし、まだまだ受け入れられるとは思えない状況にあります。
病床機能区分を進めていく中で、いくつかの問題があります。例えば、高度急性期と言われていますが、この高度急性期には、がんなどの高度医療と救急車をガンガン受け入れる急性期の病院というのが混在しているわけです。
では、がんセンターが救急車をどんどんを受け入れるかと言えばそうではないわけです。ですから、「高度な医療」と「急性期医療」を混在させて議論をするのはやや無理があるのではないでしょうか。ですから、この機能区分自体をきちきちと定義するのはやめようという流れにあると言えます。
病床機能報告では、自分の病院が急性期を目指すのか、あるいは慢性期を目指すのかという報告はできます。その結果は明らかです。日本の病院の多くは急性期を目指しているという状況です。このまま急性期を目指し続けると、これから増えてくる回復期や慢性期の必要な人たちに医療が提供できなくなってしまう恐れがあります。もしくは、非常に高いコストで提供することになってしまうという問題があります。したがって、急性期から何とかして慢性期や回復期にシフトできないだろうかという話になっています。
こうした議論を受けて、公的病院がまず率先して自分の立ち位置を決めるべきであるという議論もあります。公立病院の改革プランを作りなさいという指示がありまして、公立・公的病院は2025年に向けて自分の病床をどのような形で運営するかをそれぞれの病院が検討している状況です。
公的病院というのは、これまでなかなか馴染みがなかったのですが、町立病院などは公立病院ですね。公的病院の中には済生会、JA、国立病院機構、JCHO(地域医療機能推進機構)、日赤、労災病院などが入ります。知事が病床の削減を命令することができるのはここまでなんですね。そこまでの範囲の病院は自分の立ち位置を決めてくださいということが昨年から言われています。
それぞれの公立病院、公的病院を合わせて高度急性期と急性期のベッド数を見てみると、おそらくこれだけ必要でしょうと言われている需要をほとんどの地域が上回っています。二次医療圏の単位で言いますと、3分の2近くが公的医療機関だけで高度急性期、急性期をオーバーしている状況にあります。さすがにそんなにたくさん急性期を持っていたら地域でつぶし合いになる、もしくは大変な赤字を生み出すことになるのではないかという懸念があります。
そのため今年の骨太の方針の中には細かく書かれておりまして、地域医療構想をガンガン進めるべきだということが書かれています。地域の病院名を国が指名して、この病院については経営がその地域で成り立つかどうか、本来の役割を果たしているかどうかを考えてくださいというようなことが言われており、先月末に424病院がご指名を受けたという状況にあります。
以上、申し上げたようなことの基礎的な数字を作るのが私の役割でありまして、地域医療構想や医療計画を作るための数字を作るための研究班を務めさせていただいています。LTAC研究会幹事の副島秀久先生(済生会支部熊本県済生会支部長)にもご参加いただきまして、非常に大きな研究班を運営しています。今、起きている現象を「見える化」することに力を入れています。事例を集めたり指標を作ったり病院機能を分かりやすく表現するということをやっています。
この続きとして、NDB(ナショナルデータベース)の話を少しさせていただきます。レセプト全解析をわれわれのグループでさせていただいています。この分析は今までなかなかできなかったのですが、それをなんとかやってほしいと厚生労働省から依頼されまして、現在取り組んでいるところです。NDBをなるべく使えるようにしていこうとしています。
どのような作業をしていくかと言いますと、国から頂くデータというのは細切れのデータでして、いわばミンチの肉からステーキ肉を作っていくような作業です。さらにもらうデータは牛一匹のような規模のデータですので、自分たちはフランス料理のシェフのようなつもりで取り組んでいるのですが、とても繊細な技術とは言えないようなところもあります。NDBは、「何をしたか」ということは分かるのですが、アウトカムに当たるようなものは元々載っていない状況です。これをやっつけていくという作業をしております。
現在、巨大な牛の解体はほぼ終わりまして、スピードアップもしています。今、アウトカムを作るということに取り組んでいまして、1人の患者さんを追跡できるようにしています。いつ入院して、いつ退院したのか。どの外来で、どの調剤薬局から薬をもらったか、ということが分かるようになっています。ぜひ、こうしたデータを活用できるようにしていきたいと思います。
最後にまとめです。今、人口構成が大きく変化している端境期です。そのため、何が起こりそうなのかを見えやすくすることが自分の役目だと思って数字を分析しています。できれば、医療界が自主的に動いて、正しく現状を認識する必要があります。そのためには、より分かりやすい「見える化」が求められています。
また、病院間の機能連携と、そこからいかに地域包括ケアシステムにつなげるかも重要な課題であると考えます。これにより、医療界が自主的に動き出すことが理想的であると思っています。
〇小山(信):今村先生、ありがとうございました。次は一戸先生です。一戸先生は、厚生労働省の中の猛獣の1人です。最近、少しスリムになって上品になりました。先生、地域医療構想についてよろしくお願いいたします。
②地域医療構想における医療機関再編について
~青森県地域医療構想の経験を踏まえて~
〇一戸:私は今、京都市におります。少しおとなしくなった猛獣です。私がお話しするのは、データ分析のような高尚な話ではなく、地域医療構想を実際に行うとどれぐらい泥臭い話になるかという話です。今日の話は4つ、スライドは五十数枚ありますが、言いたいことは「考え方」の5、6枚に凝縮されています。
地域医療構想自体は、平成26年の医療法改正で入っています。私は平成23年から地域医療計画課にいましたが、もともとは急性期病床とは何かということを、急性期病床群という、療養型病床群の二番煎じのようなかたちで決めようという議論からスタートしました。急性期の幅が広く定義できなかったために頓挫し、地域医療構想というかたちになったという経緯です。
今回の平成29年の医療法改正において、地域医療構想関連では、都道府県知事の権限が強化されています。都道府県知事の権限を強化しても、地域医療構想は進まないと私自身は思っています。医者がいなければ医療機関は動きません。今回の医療法改正で、医師の配置について規制を追加したことはよかったと思います。
ただ、これについても一言あります。今回の医療法改正で、初めて医師の地域偏在、診療科偏在に焦点が当たり、地域医療構想推進のために知事の権限を強化しましたが、実際、医師の偏在是正ができると思っている人は、誰もいないのではないでしょうか。
さらに言うと、都道府県知事の権限の強化を厚労省や日本医師会が認めているのは、実際、都道府県にはできないと分かっているからではないでしょうか。医療機関に実害が生じない程度の権限を付与しているのではないかと私は思っていますが、批評していても話は進まないので、どのように進めるかを考えています。
まずは、取り巻く状況です。財務省が地域医療構想に求めていることは単純明快で、7対1を減らせばいいと思っていると考えます。一方、厚労省は地域医療構想だけではなく、働き方改革、医師偏在是正との三位一体改革を掲げています。三位一体改革には時間がかかりますが、病床削減だけを先行してやれと言われないように、三位一体でやると言っているだけだと私は理解しています。
実際、短期的な効果は薄いと思われる中で、財務省、官邸といった医療費の適正化を主張している人たちが我慢できるでしょうか。医療界の関係者が,医療の無駄や時代についてこれない部分を改革しなければいけないと思う部分は理解が同じと思いますが、旧態依然とした護送船団方式を継続するならば、今、重要な役割を担っている医療機関も含めて、医療界全体が沈んでいくのではないかということを私は危惧しています。
地域医療構想では、4機能に機能分化します。ここまでは当たり前のことです。先ほどの今村先生の話でもありましたが、公立・公的を中心に、先に議論を進めていくようにと書かれています。
また、私が青森県で部長をやっていたときにも言っていましたが、病床の機能分化を進めるには、国が一律に明示する定量基準を早く導入するべきです。
もう1つ、厚労省は公立・公的病院を先に改革しろと言っています。しかし、スライドに示されている好事例をご覧いただくと分かりますが、公立病院を合併しても病床の数はほとんど変わらない事例や、結局、公立として存続させることをモデルとして挙げています。要するに、公立を減らすかたちになっていません。公立病院は、総務省の統計を見ても、8,000億円近い赤字補てんをしています。本当に、公立病院の数を維持することがいいのか考えなければなりません。
定量基準の導入については参考として、手術の状況、救急車の受け入れなどを書いてありますが、実際どういう通知が発出されているか、抜粋して赤線を引きました。厚労省は、地域の実情に応じた定量的な基準を導入するようにと言っています。
これは結局、現状追認の基準にしかなりません。急性期とは何ものかについて本質的な議論を全くせず、現状追認のために、都道府県の基準はこうであるからとお墨付きを与えているにすぎません。
これは、青森県の地域医療構想調整会議の資料です。私の厚労省時代の同期である、奈良県の部長の林さんが急性期を2つに分ける「奈良方式」を提案し、それが全国に広まっています。急性期を2つに分けており、これを回復期と報告しています。
このやり方について、民間病院を中心とした団体は評価をしていますが、この方式の実態は、病床機能報告では回復期だといい、数字上、回復期と急性期の機能分化の目標は達成していると言いながら、現実の機能分化には全くつながっていないということです。裏を返せば、現状を全く変えることなく、数字のマジックのようなもので、地域医療構想上の病床の機能分化が進んでいるようにみえるようにしているからこそ、関係者は評価しているのだと理解しています。
これは京都府の方式です。結局は埼玉、大阪など、国がモデル方式として示したところと同じようなことをやっています。京都の場合は、独自の基準をつくって割り当てをしていますが、やっていることは一緒です。
青森県と京都市の医療提供体制は、どうなっているでしょうか。公立病院が4分の1の青森県と、民間が90何%の京都市で、同じような基準です。地域性はほとんど関係なく、病院の関係者が求める現状維持のための議論になっています。
「考え方」として、都道府県の議論は、結局は厚労省が提示したモデルベースで、対応していません。軽度急性期、地域急性期を回復期とカウントする免罪符を与えるためだけの議論が進んでいて、病床機能分化という本当のアウトカムは見ていません。地域医療構想調整会議で議論することが期待されていますが、このままでは恐らく何年たっても状況は変わらないでしょう。
「青森県の医療の状況」ということで、ここからは、私が実際どのように病院再編をしたかを話します。
青森県の医療の状況を簡単に言いますと、大学病院のおひざ元の津軽地域だけが、全国平均を上回る人口10万対医師数ですが、それ以外は全部、県庁所在地を含む青森地域ですら全国平均を下回る医師数です。絶対的な医師不足地域です。
先ほども言いましたが、青森県の市町村立病院は全体の4分の1、公的にまで広げると、半分が公立・公的の医療提供体制です。病床数にすると、6、7割が公立であり、24~25ある自治体病院のほとんどが経常赤字でした。医師の絶対的不足地域でありながら、病床が過剰であり、医療提供体制の主役である自治体病院の経営状況がよくありません。
地域医療構想には、2つのポイントがあります。それは自治体病院の再編と、医師の確保です。この2つが柱であり、絶対に必要です。
これが、今日お話しする弘前の再編、国立病院と市立病院の統合についてです。青森県には、6つの医療圏があります。見ていただくと分かるように、私がいた4年前の公立病院の名前を全部入れています。おそらく全国で唯一の構想だと思いますが、青森県内の全ての公立病院について、取り組む方向を明らかにしました。
青森地域は県立中央病院と青森市民病院について、建物の老朽化問題があり、建て直すよりも合併したほうがいいのではないかと言われています。弘前だけが取り上げられていますが、ここにも問題はあります。
青森県の地域医療構想は、全ての公立・公的病院の役割を明確にした唯一の構想です。それ以前から青森県は、自治体病院の再編成を進めていました。平成11年にスタートし、五所川原地域から始めました。
この地域には病院がいっぱいあっても、人口が少ない地域であり、人口減少も進んでいるため、5つの病院を1つの中核病院に合併しました。診療所をなくすことはせず、診療所をサテライト化し、病院群として再編しました。計画をつくってから達成されるまで、紆余曲折があり、15年かかっています。
今回の津軽・弘前圏域の構想ですが、目的は病院の再編ではありません。病院再編のための大義名分は、崩壊していた救急医療体制を取り戻すことです。200床から300床の病院が乱立していますが、医師の数が少なく、救急受け入れに積極的ではありませんでした。先ほどお見せしたように、絶対的な医師不足地域である青森県のなかでも医師が多くいる地域であるはずですが、救急搬送時間が最も長いのが、この津軽地域だったのです。
住民は、救急に対して不満がありました。市立弘前病院も、ご多分に漏れず救急の受け入れに積極的ではありませんでした。また経営状態も非常に悪かったため、十数年前から、この2つは合併すべきだとみんなが思っていましたが、進んでいませんでした。
これをなんとか中核病院にすることを提案しました。青森県では臨床研修制度が始まっても、臨床研修医を呼び込める魅力のある大規模な中核病院が少ない状況です。県の役人も分かっています。だからこそ、中核病院をつくって臨床研修を組み込む機能を持たせるための構想です。やみくもに、公立病院をつぶせと言って構想を作っているわけではありません。
平成28年に構想を策定し、半年後の10月7日に初めて公に出しました。ここから、この構想の検討が進んでいき、ちょうど2年後の平成30年10月、大学、知事、弘前市、国立病院機構で基本協定が締結されたのです。
この間が大変でした。ここにいる市長は、新しい市長です。私が提案をしたときは、前の市長でした。新しい市長に30年4月に交代し、一気に協定の締結までに至りました。病院の再編は、政治と切っても切れません。ここをやり切るだけの腹積もりがなければ、役所としては難しいです。市長交代で一気に前進し、基本計画の中で、2022年の早期運営開始に向けて進んでいます。
ここで、病院を再編するために必要なことを挙げます。まずは病院を再編しても医師がいないと困るということで、医師の偏在是正はセットで行わなければいけません。その上で総務省に対する期待は、公立病院を本当に減らしていく、効率化するならば、病院事業を廃止すると決めた自治体に、多くの財政措置をする必要があるということです。
弘前市立病院は廃止します。例えば縮小によって病院事業が残っているところには、交付税措置がありますが、完全に廃止して病院事業会計が残らない病院に対する財政支援は、今はありません。実際、弘前市立病院は、医者が大学の人事で動いており、経営がより悪化しています。早く移行してほしいのですが、オリンピックの影響もあり、建設資料が高騰しているためになかなか進んでいません。
厚労省に対する期待は、強制力を持った規制です。冒頭申し上げたように、今回の医療法改正で、医師偏在是正が進むとは誰も思っていません。私が医師需給分科会の委員で、青森県の事例を提案したときも、中間とりまとめの内容は、今の法律とは似ても似つかない法律上の強制力を伴うことが必要という内容が入っているものでした。臨床研修医の定数を変えることや自由開業について、また保険との連動について議論がありましたが、今のようなかたちになりました。
最後に、これはあくまでも私見ですが、青森県のような公立病院主体の地域で病院再編を進めるのであれば、やはり非効率的な現業を縮小し、公費の投入を抑える視点で県が腹をくくらなければなりません。その際、廃止のための財政措置については、総務省に頑張っていただく必要があります。
それから、今回は424病院を田舎中心に出しましたが、これは順番が逆だと思います。大学病院のおひざ元や大都市で、複数の公立・公的病院があるところを先に出すべきです。そこを出さないで田舎を出すと、田舎の医療切り捨てという話になります。
私の弘前の再編事例は、まさにここです。ここをやらなければ、田舎に手がつけられません。大都市で出てきた人材を田舎に配置するべきで、先に田舎を切ってしまうと、ただの切り捨てになってしまいます。424病院を出すことに反対ではありませんが、出し方の順番が逆です。
今は、京都市にいますが、京都市は民間病院がほとんどのところですので、都道府県知事の権限が強く及ばない法律上の建付けになっているので、法律上の権限などではなく、民間病院の経営に直結するような診療報酬も含めた政策誘導を進めなければ、地域医療構想は進みません。その上で、真の病床の機能分化を劇的に進めるためにも,診療報酬と連動した国で統一した定量基準を策定すべきです。
また、急性期病床の長期入院患者についての措置は、機能分化を阻害する最大の要因であり、厳格に適用すべきです。光熱水費は療養病床しか取られないといった優遇措置は廃止し、一般病床にも適用しなければなりません。私が26年の改定時にさまざまな入院料の要件を厳しくしたように、基準の抜け道や特例などを廃止することだけでも、大きく機能分化を進めることができると思います。
民間人としての視点からも、たくさん話しました。役所の若い人たちは言えないと思いますが、医療界の人たちは、皆さん思っていることと思います。以上です。
〇小山(信):ありがとうございます。全く状況の違う地域での事例を、ご発表いただきました。一戸先生にご質問、ご意見がありましたらお聞きしたいと思います。
〇会場A:先ほどの弘前市立病院の話は、私も前市長に巻き込まれそうになりました。今、青森県立中央病院の委員をしています。県立中央病院と市立病院の多くを一緒にする話に対し、市側は相当反発しています。図式的にいうと、県と市の間の対立関係が浮き彫りになっていますが、首長に対する対応はどうしたらいいでしょうか。
〇一戸:非常に難しい話です。計画をつくったのは、前青森市長のときです。前市長には、ご説明に伺い、私の感触としては、ある程度の理解を示してくれていたように思います。今は総務省出身の市長ですが、青森市が管理する病院は自力で建て直すという方向に変わっています。
知事自身も、病院の再編は重要だと理解していると私は感じていましたが、青森県の財政状況も含めて、いろいろ考えているのだと思います。病院の再編は、政治決断以外に進みようもないのですが、県と市と、お互い、どちらが積極的にかかわるのかなど、結論が出ていない状況です。ことここに至っては、政治決断をしやすいように見栄えのする提案ができるかが、都道府県の医療行政担当者の腕の見せ所ではないかと思います。
〇小山(信):最後に先生が言われたことは、とても重要です。424病院の公表もそうですが、それを受ける地域の能力には差があります。有能な人たちは、各地域にいるのでしょうか。
〇一戸:私が京都市に着任し、京都府の地域医療構想を見たときは、愕然としました。厚労省にいたときから、目を付けられているのは知っていましたが、唯一、ベッド数を明記していない構想でした。厚労省の医系技官が出向している地域が、いいか悪いかは別にして、成功事例に挙がってきています。
たたき上げの人が、地元の医師会とガチンコ勝負できるかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。出向を助長するわけではありませんが、ほかのところからの血が入らないと、なかなか劇的な改革はできないのではないでしょうか。
〇小山(信):そう思います。奈良県の林さんのように、厚労省から行って改革をするかたちになると思います。ほかにご意見、ご質問は。
〇会場B(池端幸彦・日慢協副会長):最後に先生がおっしゃった424病院の順番が違うというのは、私もそのとおりだと思います。私は県の医師会の仕事をしていおり、現職の大学病院長が副会長にいます。当然、福井市内の基幹病院から公表されると考えましたが、中小病院しか公表されませんでした。本当に、私は怒っています。公表すべきところを公表する、第2弾は早急に行われる可能性があるでしょうか。そうするためにどうすればいいか、お聞きしたいです。
〇一戸:ありがとうございます。私が担当したら、どこの病院を見直すだろうかと思ってしまいます。今回の424が出て、反応があまりにも大きかったので、厚労省としては、第2弾を出すのはかなり二の足を踏むと思われます。
先生がおっしゃるように、福井市のような事例を出すということは、本当に、活動性の高い病院を切るという身を切る話です。経営も悪く、人口も減少している地域で、住民もある程度この公立病院の状況なら仕方ないかなと、心の底では思っているような病院再編とは訳が違います。よほど慎重に進めなければいけないと思います。また、こうした真に身を切る内容の提案を最初に出すのならいいですが、424病院の公表で、医療関係者や政治家が身構えている今の状況で、追加で出すのは難しいのかなと思っています。
さらに言いたいことは、私は424病院の公表自体は賛成ですし、批判されることを覚悟で公表した厚生労働省の姿勢は評価しています。しかし、公表後に、周りから批判されて、結局、今回公表した内容をもとに、地域医療構想調整会議の議論が進めば、それで今回の公表の目的の9割は達成されていると言われると、なんのために出したのかと言いたくなります。公表後にすぐに引っ込めるようなことをするなら、出さないほうがいいと思いますし、やるなら腹をくくって最後までやるべきです。ただし、行政官だけに腹をくくらせるのは酷です。このような大事な内容を公表する前には当然政治にも根回しをしているのだと思いますし、それを了解しているなら政治も腹をくくってもらわなければなりません。そうしないと役人がかわいそうだと思います。
〇小山(信):ありがとうございます。ほかにはよろしいでしょうか。一戸先生、ありがとうございました。
〇小山(信):それでは、最後に石川先生です。今村先生は行政のこと、一戸先生は地域のことをお話しいただきました。石川先生は病院からの、地域の実際の話を踏まえてお話をしていただきます。石川先生、よろしくお願いいたします。
③今後の社会的背景を踏まえた病院戦略
〇石川:皆さん、おはようございます。この場に私を呼んでいただいた目的は、おそらく「リアル話を」ということだと思います。
地域医療構想は、私もいろいろと思うところがございます。スライドに出して、今日、皆さま方のお手元に残ってしまいますと、非常にまずいことがありますので、今日のスライドはさらっとしております。言葉でリアルな話をさせていただきたいと思いますので、聞き流していただければと思います。よろしくお願いいたします。
スライドは少し端折っております。基本的に、現状は皆さま、お分かりのとおりであり、先ほどからの先生方のお話にもありましたとおり、地域によって病院の置かれている環境は全く違います。医療提供体制自体も、地域によっての違いがかなりあります。その中で、どう自分たちの立ち位置を決めていくのか。自分だけでは決められない公的な医療機関もありますが、私は民間の病院ですので、自分たちの方向性を自分たちで決めることができます。数年前から、いろいろな努力をしてきたつもりです。
今、SDGsと言われ、企業も持続可能性を考えています。人口減少等、いろいろな社会構造が変わる中、持続可能な病院の在り方が問われています。
先ほどから「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」についてお話がありまして、昨年、対策基本法が成立しています。なぜ、これを出したかといいますと、脳卒中と循環器病によって要介護状態、寝たきりになる方の割合が多いからです。また、健康寿命の延伸に関しても、脳卒中、循環器病疾患は重くのしかかっています。これらの布石として、基本法が成立したのではないかと思います。
この基本法が成立したことは、国が、1次脳卒中センターや包括的な脳卒中センターの開設に関する課題を重点的に解決していき、できるだけ適切な治療を圏域の中で行うことができる体制づくりのため、本腰を入れるということだと思います。前段として話しておきます。
私どもの地域も、決して恵まれてはおりません。人口減少問題が、非常にひっ迫しています。平成30年に総務省から出されたデータでは、2040年までに30%の人口減があります。一番の問題は、生産年齢人口が急激に減少することです。今は、このようなかたちで、団塊の世代の方たちと、その子世代、団塊ジュニアと言われる世代の方の人口が突出しています。
これから10年から20年かけて、85歳以上の高齢者の人口が急増し、そこからは高齢者の人口が減少します。この20年間、私たちは次のステップとして、病院の統合再編を含め、自分たちの施設や病院の在り方を模索しなければなりません。これを考えなければ、持続可能性はないと考えます。
医療需要、介護需要は、圏域によって大きく違っています。実際に、私どもの圏域では、来年あたりが医療需要のピーク、介護需要のピークまでは、あと10年くらいです。そこからは減少します。愛媛県の中でも、私たちのいるところは東予地区といわれる東の端です。南予といわれる宇和島などの過疎地域の医療需要も、これからは減少していきます。その段階において、地域によっては病院の再編統合を急がなければ、存続はないでしょう。
高齢化による疾病構造の変化について、高齢者に多いのは誤嚥性肺炎、脳血管疾患、骨折、糖尿病、虚血性心疾患です。がんに関しましては、標準的な治療ができる年齢の幅が明らかに狭まってきます。また、がんは急性期の治療は必要なく、ほぼ慢性期、もしくは、これから治る病気の1つになる可能性があります。高齢者の標準的ながん治療の在り方も、変わってくると思われます。どの疾患に対して自分たちがアプローチすべきかは、非常に重要です。
少しまとめますと、2019年以降、少子高齢化の急速な進展で、働き手の確保が私どもに求められます。業務の効率化と一言で言いましても、ICT、ロボットをすぐに入れられる環境かといいますと、決してそうではなく、そのための財源もありません。自分たちでイメージできない環境は、私は実現できないと思っています。どのようにして実現可能なところに持っていくか、日々、頭を悩ませています。
先ほど、三位一体という言葉が出ました。今の大学の医学教育に関しても、やはり専門医を輩出するところに大きくかじを切ってきました。これからの高齢者医療に関しましては、多疾患の合併症が多い、慢性期治療にも精通した医師の育成が必要です。専門医を確保するためには、やはり急性期病院であり続ける必要があるのが現状です。だからこそ、急性期の病院は、急性期にしがみついていたいのだと思います。地方ほど、そういった傾向が強いと思われます。
医師の働き方、医師の偏在に関しても、非常に大きな問題があります。愛媛県の中でも、松山に医師が集中しています。教育の問題もあり、南予・東予地域には医師は来ないため、関東や関西、全国から医師に来ていただいています。医師の働き方に多様性を認め、環境づくりをしなくては、地方での医師確保は困難です。大学の医局にもそれほどのマンパワーがないため、どの教室も医師の確保が難しい状況です。なおかつ、専門医制度が大きく変わっているため、いろいろな意味での医師の供給体制に、非常に偏在があると感じています。
私どもの病院紹介は見ていただければ分かりますが、実際には257床の急性期ケアミックスです。HITO病院に改編してから6年半になります。病床機能分化を自分の病院の中でこまめに行わざるを得なかったのは、圏域の中に、後方病床を担う病院がほとんどなく、高齢者を支えるには、なかなか難しい現実があったからです。病院完結型、グループ完結型にしなくては、高齢者を支えられない現実があるため、医療・介護複合体をつくってきました。
3つの法人で、石川ヘルスケアグループという名前をつけています。私が理事長をしておりますHITO病院と、社福と医療法人による医療・介護複合体です。父は来年80歳になりますが、父も元気で頑張ってくれていますので、父が元気な間に、いろいろなところで見える化をしていかなければなりません。
職員数は約1,300人、私どもの病院では約550人です。今は後方病床となる施設はありませんが、医療法人で在宅中心のスーパー老健を持っておりますので、そこで在宅復帰を担っています。また、社福には介護系の施設があり、連携していますが、全て囲い込みをしているわけではなく、訪問診療は開業医の先生方と連携しています。また、行政との連携も欠かせません。
四国中央市の人口は9万人弱ですので、民間病院の中ではナンバーワンでなければ、民間の中で残れません。全ての領域においてナンバーワンになる必要はありませんが、自分たちが得意とする分野をしっかりと持っておかなければ、これからは生き残れないと思っています。
四国中央市は東西に長い市で、端から端まで、車で30分くらいかかります。地域包括ケアシステムについては、介護拠点となる施設と私どものグループとで、東西で長くカバーはできています。老朽化している施設もありますので、統合するところは統合し、ICT活用をするところは活用することも視野に、うまく人の配置ができるよう連携を図り始めたところです。
ここからは、地域医療構想の現状です。開業医の先生方も非常に高齢化していて、60歳以上が半数を占めるため、「有床」をやめているところがほとんどです。跡を継ぐ人がいないために、これから10年くらいで廃業するであろう開業医が増えている現状があります。また、私どもも含め民間病院でも、自主的に急性期を減らしています。これでうまくいっていると言うのですが、実は何もしていないのです。
これは2014年です。見にくいですが、緑が回リハ、地域包括がオレンジです。急性期のうち、色の濃いのが7対1です。宇摩圏域は香川と徳島の県境にあり、こちらは愛媛県の隣の圏域になります。こういった配置で、2014年には、ぱっと見ると急性期が多い印象がありました。
私どもが6年半前、なぜ病院を建て直すことになったかといいますと、もう10年前の話になりますが、県立病院が赤字経営で成り立たず、民間移譲することになりました。地域医療再生計画の際、学校共済の四国中央病院が移譲先になりました。そのときに、うちも104床をいただいて、今の病院を建てたのです。155床から257床になりました。うちは建てたのが6年半前になりますが、四国中央病院は、民間移譲されたにもかかわらず、病院を建てていません。補助金も全部使っていて、本当に腹が立ちます。お金をもらったのに建てないのかと。
ここも一応、公的医療機関ですので、2025プランを出してきているのですが、訳が分かりません。見ていただくとわかるように、入院基本料は6です。急性期稼働は今、6割です。それなのに2025プランで出てきたのは、現状維持です。公的医療機関の先生方で、頑張られている病院もあるとは思いますが、現状維持が大好きです。今ごろ、新病院を建てるからということで、そのプランはてんこもり機能です。総合病院でやるという話です。今ですら6割稼働なのに、250でやるという話です。私も、地域医療構想の会議でも意見を言わせていただくのですが、「これは本部の意向で」の一点張りです。「本部の意向」じゃないでしょう。地域医療構想で、調整会議で話し合って、民間が担えない機能を公的が担うことが明記されているではないかと言うのですが、全く聞く耳を持っていただけません。
この新居浜の圏域は急性期の病院が多く、労災病院は200床、ダウンサイジングされています。緑で書いてあるところが、ダウンサイジングされているところです。うちは地域包括を53に増やしました。隣の3次救急をされている三豊総合病院は回リハをつくられましたし、三好病院も緩和をつくられました。一部、努力をされているところが見えるのですが、こちらの病院だけが全く努力をなさらないということがあり、非常に私は憤っております。血圧が上がるか、このままだと早死にすると思うところです。
私どもが開院後の6年半、目指してきたのは、地域ニーズに応じることです。高齢者が増えることに応じて、機能回復を重視しています。また、104床増えたことにより、若いスタッフが増えましたので、センター化して、医師をチームリーダーとしたチーム医療全体の教育に力を入れてきました。
人が集まる病院としてのブランディングのためには、やはり患者さん、スタッフから選ばれることです。実際に、かなり地域貢献事業を行ってきたつもりです。また、働きやすい環境づくりやICT活用をしているのも、この厳しい時代、この厳しい地域だからこそ、業務の効率化を先取りして行う必要があると思うからです。
宇摩圏域の推計入院患者の増減です。先ほどお示ししたところで、やはり4疾病プラス整形疾患だと思います。これに対して行っているのが、脳卒中、創傷ケア、糖尿病、人工関節、歩けない原因に対してのアプローチで、リハビリにはかなり特化して、以前から取り組んでいます。今は、医療用のHAL等を使った治療を継続的にやっています。
地域包括ケア病棟は、2014年からケア病棟、急性期を一部転換したところから、高齢者の退院支援においてのチーム医療で、認知症、SST、口腔ケア、リハビリ栄養、減薬を継続して行っています。
また、総合診療医をどうしても地域で、うちの病院から輩出したいという想いがあり、後期研修の受け入れを、当初から始めました。今、2名の研修医が後期研修を受けてくれていますが、地域包括ケアで総合診療医の活躍ということが、なかなか結び付かないと最近感じております。学会の在り方等もあると思いますが、私どもの病院では、救急のトリアージは総合診療医が主に担ってくれています。今、済生会熊本病院でも行われていますが、専門以外のいろいろな領域に対して、高齢者医療に精通した医師を育てることは、非常に可能性があると思っています。
病院の専門医が働きやすい環境づくりを病院総合医が担うのは、非常に理想的だと考えています。日本病院会のプログラムに私どもも入っていますが、私も来年入らせていただき、専門医、多職種の間をつなぐかたちで、今後、その教育に関しても継続的に行っていこうと思います。
地域の中でナンバーワンになる疾患を、というところです。私どもの病院は脳卒中については86%ですので、圏域のカバー率は1位で、2014年以降も患者数は増えています。圏外に流れるケースを減らそうと、この数年間、取り組んできていまして、比較的、功を奏していると思います。
心疾患に関しましても、今、7割弱になっています。2014年から41.5%増加で、インターベンションができるのは、圏域では私どもの病院だけです。やはり時間との勝負、早く治療をして後遺症を防げる病気に関しては、圏域内での完結がどうしても必要だと私は思っていますので、脳卒中と心筋梗塞で、うちの病院がナンバーワンにならなければならないと思います。
糖尿病は、糖尿病専門医が来年、また1人増えますので、6割ぐらいのカバー率です。糖尿病に関しては、チーム医療と腎症予防に、積極的に介入しています。
4疾病の対応状況ということで、この変なマークが多ければ多いほど、カバーしています。今月、一次脳卒中センターが、私どもの病院にも学会から認められましたので、ここからが、おそらく次のステップだと思います。
今、血管内治療医が私どもの病院に2名おります。血栓回収療法のセンターも、学会等で今後、認定が始まると聞いておりますが、東予といわれる広い圏域でも、専門医が3名いなくてはならないと決まっています。中・四国は少し緩和される可能性もあると聞いていますが、地方では、その基準をクリアするのは大学であっても難しいです。
脳卒中に関しては、広い範囲のネットワークを組んで、広域から患者さんが来る体制が望ましいと考えます。脳卒中、心疾患以外、例えばがんは、松山で治療していただいて、私どもは化学療法であったり緩和ケアでお手伝いができればいいと最近は思っています。そういったところで圏域内でのネットワーク、広域でのネットワークづくりに努めてまいりたいと思います。
「地域医療構想を考える上での問題点」とありますが、医師会の先生方にも、自分たちにはあまり関係ないという温度差を感じます。保健所の人も、厚労省からの文書を棒読みするだけです。いくら提案しても、全く議論が進みません。
先ほどの2025プランも、あり得ない話を出してくるため会議にならず、難しいです。県病院の民間移譲が絡んでおり、政治的な背景もかなりありますので、前市長に続いて今の市長も新しく統合した四国中央病院を建てたいようで、温度差を感じています。
あと、急性期病棟から回復期リハビリ病棟への転換を考えるのであれば、半年間の実績期間は難しいと思います。半年の実績期間があり、なおかつ急性期の要件を満たしつつ、回復期の要件を満たすことは無理です。そのときの半年間は、経営的なインパクトも強いので、そういったこともお考えいただければと思います。
病床の機能分化は最終形です。機能回復、下は業務効率化に関わるところです。私どもの圏域には企業が結構ありますので、予防のための健診センターといった診療報酬外の自費の部分を、今後はもう少し頑張っていく必要があると思っています。また、地域ナンバーワンの疾病に対して、機能をさらに上げます。私は2代目ですので、新しい病院にしてつぶれたと言われないよう、覚悟を決めて病院経営をしなければなりません。
これはアメリカの思想家の言葉です。目の前の現実と闘って私がカリカリしていることは、あまり意味のないことかもしれませんが、今は奇想天外でも、何十年後には当たり前になっている新たなモデルをつくることが、今の時代には特効薬として必要なのではないかと思いながら、日々模索しているところです。つたない発表ですみません。聞いていただいてありがとうございました。
〇小山(信):最後が、一番の猛獣度でした。ご質問、ご意見がありましたらお伺いしたいと思います。よろしいですか。
それでは、このあとの討論を、もう1人の小山先生にお願いします。
シンポジウム
〇小山(秀):今日は、久しぶりに石川理事長が怪獣になるところを見ました。皆さんは初めて見たと思いますが、今日の怪獣度で、15%ぐらいです。
彼女の言っていることが私は正しいと思っていますし、応援しています。四国中央病院は、しごく厄介です。これは地方の教職員組合立です。北海道中央病院、東北中央病院、関東中央病院、九州中央病院といって、各ブロックにある地方公務員の教員、公立学校共済の病院の1つです。さあ、この病院は公立病院ですか。公的病院ですか。
考えてみると、仕分け的には社会保険団体です。国家公務員共済組合もあり、これはまた別ですから難しいです。白でもない、黒でもない、グレーでもない、ちょっと黒グレー。これが大変なことを言っていると、怒ってらっしゃいます。
もう1つ、今日、全員の意見が合ったことは、公立は何もしない、頑張りもしないのに、口だけで言って、現状維持を喜ぶと。現状維持では、世の中は何も変わりません。現状維持のために能力を割いていると、イノベーションは全く起きません。壊さなければ、新しいものはできません。なぜ現状維持をするのか、現状維持が楽だからです。
私は公私の病院格差の研究をたくさんしましたが、公立病院を崇拝するわけでもなく、民間病院を崇拝するわけでもありません。どちらかというと民間が主で、公的なものは補助的なのかもわからないですが、両方あるのではないでしょうか。
例えば、マグロで有名な青森県大間町には、医師が6人いる、公立の大間病院があります。この病院の病床利用率は、約60%ぐらいだと思います。この病院は要らないですか。ほかに開業医は一切なく、民間病院もありません。公立病院が憎ければ、大間で開業しますか。
そういうところの公立病院は、なくてはならない事情があります。424病院を発表したからどうこうとなっていますが、よく考えてください。424病院を、役人が許可なく勝手に発表したわけではありません。424病院を発表していいと言った、日本で一番力を持っている医療団体があります。厚生労働省の官僚が勝手に発表できるほど、この国の官僚はばかではありません。了解をした人も、一緒に責任を取ってもらわなければなりません。
全部が民間病院でなければいけないわけでも、全部が公立病院でなければならないわけでもありません。大間のマグロを食べ続けるためには、病院が必要なのです。公立病院を経営が悪い順に並べ、地域医療構想をつくれというのでは、地球温暖化問題のスウェーデンの女の子に笑われます。病院経営の問題と地域医療構想を絡めたような、ばかな議論には与しないということが1つです。これでいいですか。
2つ目に、公的病院が議論に参加しない態度は、ばかげています。私は2つの地域の地域医療構想会議の委員ですが、最後は、みんなが「どうしたらいいでしょうか」と私の顔を見ます。
西宮では、県立西宮と市立病院の両方ともが駄目なのに合併するそうです。私はそこの委員ですが、電車に乗ればすぐに大阪に行ける西宮で、やる必要があるでしょうか。そんなところに公立病院は要りません。地域医療構想における行政の公立病院に対する責任は、万死に値します。きちんと話し合ってほしいということについて、3人に質問します。
〇小山(信):今村先生、お願いします。
〇今村:なかなか、厳しいご指摘をいただきました。統一基準をつくるべきだという話が先行していて、同じ基準で日本を見ようとすると、どうしても例外が出てきます。一番例外が少ない指標をと言っていると、一番ターゲットにしたいところが外れるというのが現状だと思います。何をしたいかを決めてから指標を決めたため、その指標に制約がかかり、今、一番重点的なものが外れています。
財務省、厚労省、医師会、総務省のやりたいことが、実は違います。全部の接点を取ると、こういうかたちになっています。それぞれ、最初にやれることをやりましょうというのが、今の動きだと思います。そのために、二の矢が継げなくなっている、とても不幸な状況になっています。
小山先生がご指摘のことは、議論の中で全て出ていますが、かといって、それをあるべき論に持っていけるような、それぞれの団体の利害を調整する能力は、今の日本にはありません。
やろうとしている努力は見ていますが、つぶれていく姿も見ています。自分もつぶされる場合が出てきます。たくさんの人から強烈な非難を受けていて、人間、どこまで非難に耐えられるかという限界に挑戦しています。それぞれの限界が、このへんだと思っています。私的な意見です。
〇小山(信):理解者も多いです。
〇小山(秀):今の今村先生の立場では、これしか言えません。あとで、ゆっくり話しましょう。
〇小山(信):一戸先生。
〇一戸:青森の再編もそうですが、先ほど言っていた経営的な観点でやっているわけではありません。背景には経営もありますが、あくまで問題は救急医療の立て直しと医師の処遇です。大間病院は残さなければいけないというのは、そのとおりです。地理的にも、近くの病院から大間病院まで車で1時間以上かかります。
もう1つは、これは、皆さんお気付きか分かりませんが、実は公立病院の建て替え費用の交付税措置は、せいぜい25%です。そこに目を向けると、今の地域医療介護総合確保基金は、都道府県の持ち出しは3分の1です。3分の2は基金で出ます。総務省出身の知事がおられるところは、交付税算定よりも、国の基金の補助のほうが高いことに目を付けていて、公立病院の建て替えを今やるべきだと思っておられる方も多いです。424病院の公表よりも、そういった財政的な問題をちゃんと措置しなければなりません。
〇石川:私は、何を話せばいいでしょうか。現状で病院を新築しているかどうかはポイントであって、池端先生がおっしゃったように、これから公的医療機関でも新築等を考えられるところが多いと思います。絵に描いた餅を、どう現実的なものにするか。私たちは仕送りがありません。常に仕送りがある病院とは違います。
日本の財政を考えると、経営母体の大きな法人も今後、永続的に赤字経営では難しいという現実が目の前に来ていると思いますが、現場のスタッフとの意識の乖離があります。民間は民間で切羽詰まっていますから、自主的な努力で経営を続けるのは当たり前ですが、仕送りが永続的に続くと思われている公的医療機関が多いのではないかと日ごろの議論から考えます。
〇小山(秀):司会がしゃべり過ぎて、時間がなくなりました。すみません。今日の結論は、地域医療構想の徹底検証です。調整する能力はないということで、シンポジウムを終わりたいと思います。ありがとうございました。
〇森:以上をもちまして、シンポジウム1を終了いたします。小山信彌先生、小山秀夫先生、今村知明先生、一戸和成先生、石川賀代先生、ありがとうございました。
(了)
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