日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第5回研究大会 開催報告

【 ランチョンセミナー 】



「地域包括ケア病棟について
~中医協入院医療分科会からの報告~」

座長:副島秀久(支部熊本県済生会支部長)

講師:武藤正樹(国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授)



〇副島:演者の武藤先生とは長いおつきあいでありますが、中医協等で得られたさまざまな情報をお聞きできると思います。それではよろしくお願いします。

 

〇武藤:ご紹介いただき、ありがとうございます。本日のテーマは地域包括ケア病棟についてですが、まずパート1「財源なき改定と医療介護一括法」、次にパート2として「2018年診療報酬改定の4つのポイント」についてお話します。

 それでは、パート1の「財源なき改定と医療介護一括法」です。私も団塊の世代ですが、2025年に団塊世代は700万人に上り、揃って後期高齢者になります。社会保障給付費は2012年度ベースで約110兆円だったのが2025年には149兆円に達するという予測です。この財源を充当するために消費税率を上げているわけです。

 2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる予定でしたが、10%への引き上げは2017年4月に先送りされ、さらに2019年10月に再延期されました。このため来年の同時改定は増税なき改定になります。

 鈴木医務技監も指摘されていましたが、安倍首相は社会保障政策の内容について高齢者中心から「全世代型」に見直す意向を示しており、ますます厳しい改定が予測されます。ただし、2019年10月の消費税率の引き上げはほぼ確実に行われる情勢です。

 これまでも安倍内閣は社会保障費の自然増を削り続けています。2016年度は1,700億円圧縮、2017年度は1,400億円圧縮していずれも5,000億円以内の伸びにとどめています。そして2018年度予算も自然増1,300億円が圧縮されます。ですので、来年の同時改定は消費税なき改定、自然増圧縮改定といえるかもしれません。

 改定率の推移をみてみますと小泉内閣のころは、-2.7%、-3.16%と医療崩壊かと思われるほどのマイナス改定が続きました。そのあとは少し持ち直しましたが、安倍内閣になりまた雲行きが怪しくなっています。幼児教育・保育の無償化などで大幅ダウンもありうるという状況です。

 次にパート2です。2018年診療報酬改定について入院医療等の調査・評価分科会の報告から入院医療4つのポイントについてお話します。

 改定の基本的視点ですが、一番の目玉は7対1の厳格化と地域包括ケア病棟です。ポイント1にも7対1病床の要件見直しを掲げていますが、重症度、医療・看護必要度の議論に時間にして3~4割費やしました。

 おさらいですが、7対1入院基本料における評価指標は、①重症度、医療・看護必要度、②平均在院日数、③在宅復帰率─です。①の施設基準は、重症患者が25%以上いないとだめですよということです。

 その問題の重症度、医療・看護必要度ですけれども、2014年改定ではA項目(モニタリング及び処置等)が2点以上かつB項目(患者の状態)3点以上の該当患者割合が15%以上という基準でした。

 しかし、A項目とB項目は正しく急性期の患者を反映しているのかということで、2016年改定では評価項目が付け加えられました。A項目に無菌治療室での治療や救急搬送、B項目には危険行動などを加えたほか、C項目(手術等の医学的状況)が新たに設けられ、重症者の定義も「A項目が3点以上の患者」と「C項目が1点以上の患者」が加わりました。一方、重症者の範囲が広がりましたので、患者該当率は15%から25%へ引き上げられています。

 その影響で7対1病床は1年間に1万2,000床減少しました。7対1から転換した理由を聞いたところ、「重症度、医療・看護必要度の基準を満たせないため」が最も多く、さらに7対1の転換先は、地域包括ケア病棟入院料1が一番多いという結果が明らかになりました。もう1つ7対1の届出状況で注目すべきは「休床している」という回答です。7対1病床を減らして重症者の該当率を調整していると予測されます。

 分科会では7対1と10対1の比較を行いました。まず病床規模を比べてみますと7対1はどちらかというと大病院、10対1は200床未満の病院に集中しています。入院患者のうち74歳以下の患者の占める割合が多いのはやはり7対1で53%。ところが10対1は40%未満です。疾患構成では7対1ではがんの患者さんが一番多く、10対1は骨折・外傷、肺炎が多くなっています。

 また、病棟の看護職員の配置数を調べてみると、10対1の実配置数が7対1の基準(実際に必要な配置数)に近づいている。日当点では7対1が5万2,000円、10対1が3万7,000円と1万5,000円ほどの開きがあります。

 7対1と10対1では重症度、医療・看護必要度の評価の仕方が違います。7対1は25%のカットオフ値を設けていますが、10対1は加算による評価となっています。該当患者割合が24%以上の場合は看護必要度加算1として1日につき55点加算できます。

 そのため、7対1の重症度、医療・看護必要度が、25~30%で最も多くなるのは当然でしょう。ただ、30~35%も意外と多くて全体の4分の1弱、35~40%も4%ほどいます。10対1の分布では15~20%が最も多くなっています。

 平均在院日数を縦軸、重症度、医療・看護必要度の該当患者割合を横軸にして7対1と10対1の病院をプロットしてみますと、結構分散しています。また、ある部分では7対1と10対1が混在している傾向もみられます。

 この図をみて8月24日の分科会では「7対1ではカットオフ値である25%ギリギリの病院が圧倒的に多いが、10対1は正規分布に近い」という意見もあれば、健保連の代表の方は「段階的に評価してよいのではないか」という意見も飛び出しました。

 さてポイント2の地域包括ケア病棟です。先ほどからお話に出ていますが、地域包括ケア病棟の役割・機能は、①急性期病床からの患者受け入れ、②在宅等にいる患者の緊急時の受け入れ、③在宅への復帰支援─の3つです。リハが包括されていますが、入院料(入院医療管理料)1が2,558点。そのおかげもあって現在、届出病床数は急増しています。

 病床規模の分布ではやはり200床未満が多いのですが、200~299床、300~399床の病院もそれぞれ15%ほどあります。ケアミックスの状況では10対1を持っている病院が一番多く、次いで7対1、回復期リハ、療養病床の順になっています。この組み合わせの違いによって地域包括ケア病床の性格もだいぶ変わってくると思います。

 地域包括ケア病床における患者の流れですが、自宅からが26%、自院の7対1、10対1が50%、他院の7対1、10対1が13%という状況。自院の急性期病棟の受け皿として利用されているケースが一番多いです。

 ただ、入棟前の居場所別の「医学的な理由」をみますと、自宅等から来た患者さんのほうが医学的に不安定である。それはそうですよね、急性期病棟から来た人は急性期治療を終えてきた人であるのに対し、自宅から肺炎や骨折で入院する患者への対応のほうが大変かと思います。

 こうした状況を踏まえて分科会では、「自宅からの患者については負担がかかることが確認できた。何らかの評価を検討してもいいのではないか」、これに対して「地域包括ケア病棟は創設当初の3つの機能を育てていくことが大事だ」という意見もありました。つまり、あまり機能ごとに評価を細分化していくと幅広い機能を持つ地域包括ケア病床の特徴が薄らいでしまうという懸念もあり、この辺は慎重に議論していきたいと思います。

 なお、地域包括ケア病床を有する病院の在宅医療支援ですが、訪問診療が約2割、訪問看護は併設のステーションを含めると約4割の病院で実施していました。また、約3割の病院が在宅療養支援病院でした。

 ポイントの3は、療養病床とDPC提出加算です。療養病床の届出ですが、医療療養病棟1(20対1)が増えて、医療療養病棟2が減少しています。入院患者の医療区分は、療養1で医療区分2、3の患者が9割、療養2でも6割を占めています。

 今回は医療区分別の要介護度を分析しました。そうしますと医療区分が上がるほど要介護度もやはり上がっています。また、これも当然かもしれませんが、医療区分が上がるにつれ状態の不安定な患者の割合が高くなります。医師による医療提供頻度、看護提供頻度も同様です。現行の医療区分が慢性期患者の重症度を的確に反映しているともいえます。

 ところがDPCデータで医療区分別の1日当たりの平均点数を比べますと、医療区分1と医療区分2、3の間には差があるのですが、医療区分2と医療区分3の間ではあまり差がありません。

 そういったこともあり、詳細な調査が必要ということでDPCのデータ提出加算を拡充しようという議論になりました。現状ではデータ提出加算の算定は療養病床の4分の1です。データ提出加算の要件化は7対1を皮切りに地域包括ケア病棟まで広がっていますけれども、療養病床と同様に回復期リハ病棟でもデータ提出加算の要件化がされていません。ただ、回復期リハでも実際に提出は進んでいます。例えば許可病床200床以上の病院の回復期リハ病棟の83%、200床未満の回復期リハ病床の56%が提出している状況です。一方、療養病床の提出が進んでいません。200床以上の病院でも40%ほどです。

 そこで分科会でもいろいろな議論が出ました。そのなかで「データ提出は病院・病棟のパフォーマンス把握のため重要である。ただすべての療養病棟に提出を義務づけるのは難しい」という意見が多くを代弁していると思います。例えば、200床未満の病院はどうするのか、病床で切り分ける方向性なのかなと思います。

 ポイント4の療養病床と介護医療院です。皆さんご承知のように介護療養病床6.3万床、医療療養病床25:1の約8万床を揃って2017年度末に廃止するということになっています。全部で約14万床をどうするのか。

 そこで療養病床の在り方等に関する検討会で散々議論を尽くし、結論的に言うと医療機能を内包した施設系サービスと、医療を外から提供する居住スペースと医療機関の併設という2つのタイプをつくりました。前者はさらに介護療養病床相当と老健施設相当の施設基準に分かれています。これらの施設は介護医療院という名称が与えられました。

 廃止期限は2018年3月ですが、報酬体系がでないと経営判断できませんので来年の春からスタートして6年間経過措置を延長して順次、介護医療院に移行していくというスケジュールです。介護療養病床が介護医療院になって影響を受けるのは、既存の老健や特養です。特に看取り等の体制が不十分な特養にとっては大きな脅威になると思います。

 そしていよいよ8月7日より介護給付費分科会で介護医療院の議論が始まりました。報酬水準や人員配置、構造設備、転換促進策など決めなければならないことが盛りだくさんです。また老健との関係性の整理、医療療養病床からの転換をどうするかといった検討も必要になってきます。さらにいずれは一般病床からの転換も認めてはどうかという話もあります。

 日本慢性期医療協会の武久会長は、介護医療院について7~8万床と予測しています。先ほどの鈴木医務技監の話によると、2025年までに遊休病床を除いたら5万床の減少で良いとのことでしたので、7~8万床移ったらこれだけで地域医療構想が達成できるかもしれません。

 2018年はまさに社会保障改革の惑星直列で、ありとあらゆる検討会、審議会はフル稼働の状況です。どんどん新しいことが決まってきますので目を離す暇がありません。これが来年3月まで続くわけですが、そのなかで何とか医療介護のあるべき姿に近づけていければよいと考えています。

 

〇副島:地域包括ケア病棟は現状、急性期もあり、回復期もあり、慢性期もありというかたちですが、そういう機能がそのまま継続されるのでしょうか。

 

〇武藤:地域のニーズに応じて足りないところを補完していくというのが地域包括ケア病棟の役割であると思いますので、こうした多様性は今後も維持されていくのではないかと考えています。

 

〇副島:地域包括ケア病床が爆発的に増えています。しかし、これだけで2025年に安心できる医療提供体制を構築できるのか、外からみていると心配な部分もありますが。

 

〇武藤:地域医療構想で回復期は現状11万床ですが、37万床に増えると推計されています。回復期リハ病棟は現在7万床ですが、ここが急速に伸びるとは思えませんので、残りの部分は地域包括ケア病床が担っていくのではないかとみています。

 

〇副島:地域の実情に応じて地域包括ケア病床や在宅などいろいろと組み合わせて、この難局など乗り切っていかなければいけないと感じました。武藤先生、ありがとうございました。

 

(了)

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