日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第5回研究大会 開催報告

【基調講演】



総合診療専門医とLTACについて

 

座長:定光大海(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター救命救急センター診療部長)

講師:吉村博邦(日本専門医機構理事長)



〇定光:日本専門医機構の吉村博邦先生には、平成30年度から新専門医制度がスタートする大変忙しい中、今回基調講演をお引き受けいただき、ありがとうございます。早速ですがよろしくお願いします。

 

〇吉村:日本専門医機構の吉村です。新しい専門医制度は、いよいよ10月から登録開始で大詰めを迎えていますが、まず現状についてお話しし、そのなかで総合診療専門医を新たにつくりましたので、医療機関でもその活躍が期待されているということで、ご説明したいと思います。

 まず医師養成の過程ですが、学部教育で1、2年生のときに教養教育、基礎医学、3、4年生で臨床医学、5、6年生の臨床実習を経て卒業試験にパスしたら医学過程を修了。医師国家試験を通ったのちに2年間、卒後臨床研修が設けられています。ここまでは医師になろうとされる方の共通プログラムです。

 その後は本日のテーマである専門研修、これは実は病院別研修でこれまでの教育とはかなり違うというご理解をいただければと思います。

 医師養成の過程とパフォーマンスレベルを示します。医学生1~4年はNovice(新人、見習い)、5~6年生(臨床実習生)はAdvanced beginner(初心者)、初期臨床研修医はCompetent(能力がある)、後期専門研修の専攻医はProficient(熟練した)と進み、その後、もちろん生涯研修に入ってExpert(卓越した、指導者)ということで、むしろこの部分が圧倒的に長いわけです。

 さて専門医制度に対してはいろいろな疑問があると思います。「専門医とはいったい何?そんなものはいらない」といった意見も多数聞かれます。これまでもきちんとやってきたのだから従来どおりでいいではないか、あるいは専門医になると専門以外診なくなるという考えをお持ちになる方もいます。

 また、専門医機構に対しても「何の権限で指示をするのか、自由にやりたい、画一的にしないで」という声や「大病院・大学中心。地域医療が崩壊する」といった批判までさまざまあります。

 これらの背景には、専門医制度に対する理解がまだ十分ではないといったことが挙げられます。情報不足や誤解もあるでしょう。また、医学生や研修医、若手医師などはこれからどうなるのかといった不安も大きい。もちろん地域医療に大きな影響を与えるのではないかと危惧される方も多いと思います。

 そこでまず専門医制度の意義について説明します。いったい、この制度は誰のためにあるのかと問われたら、もちろん患者さんと専攻医のためと答えます。患者さんは標準的で信頼できる治療を受けたい、また医療の地域間格差を小さくしてほしいというニーズがあります。一方、専門医を目指す専攻医は自信をもって医療を担当できる1人前の医師になりたい、あるいは充実した研修を受けたいと願っているはずです。つまり、主役はあくまでも国民と専攻医であり、もちろん機構のためではないし、学会のためでもありません。

 わが国の卒後教育では現在、卒後2年間の臨床研修制度が必修化されています。将来の専門性にかかわらず、医師として基本的な診療能力を涵養することが目的です。しかし、その後の専門研修は残念ながら系統的なしくみがありません。全国の各施設が独自に後期研修制度をつくっています。これはまったくの任意で基準も評価もない。そのため十分な研修を受けないフリーター的な医師も増えているのが現状です。広告可能な専門医資格保有者は各年代とも7割程度です。

 そうした現状で少なくとも基本的な診療科、内科や外科、小児科などについては初期研修修了後に全員、3年間程度の研修を行ってほしい。これはよりよい治療を求める患者や国民の願いでもあると思います。なお、自由標榜制のもと、専門医を養成する後期研修のしくみはないのは、先進国では日本だけです。

 ここで言う専門医とは、いわゆる神の手を持つ医師やスーパードクター、つまりExpertを意味するのではなく、それぞれの診療領域において患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師、Proficientな医師を指しています。そういう医師をいかに育てるかが専門医制度の大きな目的であり、課題であると考えています。

 学会による専門医、認定医制定の経緯を振り返ってみます。昭和37年、日本麻酔科学会が指導医をつくりました。当時、麻酔は外科医が行っていて専任の医師がいないため、まず専任の医師を養成しよう、そのためには指導医が必要だということで制定されたといわれています。その後、皮膚学会、脳外科学会などが専門医をつくり、昭和43年には内科学会が認定医をつくってその上に専門医をおくようになりました。その後も各学会で続々と専門医・認定医が制定さてれています。

 一方、こうした専門医制度を統括しようという動きがあり、昭和56年に日本医学会加盟22学会が集まって専門医の質の向上等を目的に学会認定制協議会が発足しました。平成13年になり、やはり学会が主導していても認知されないため、専門医認定制協議会となり、学会から少し離れた組織をつくりました。平成15年には専門医の広告が可能になったことを受けて法人格が必要だろうと日本専門医制評価・認定機構を設立。これが日本専門医機構の前身です。平成26年5月の専門医機構の設立に伴って解散しますが、解散時点で85学会、81専門医が登録していました。

 現状の専門医の区分を紹介します。基本診療領域は総合診療専門医を含め19専門医、サブスペシャルティ領域は29専門医。そのほか区分未定が54専門医あり、合計で102の専門医がいるという状況です。

 基本診療領域とは、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科など基本的な診療科です。サブスペシャルティ領域は基本領域から分化したもので、内科系13領域、外科系4領域、その他12領域で構成されています。

 ここまでは決まっていますが、区分未定の54領域を今後どうするかが大きな課題となっています。大きく分けて、乳腺や内分泌外科、大腸肛門病など細分化した診療領域と思われるもの、消化器内視鏡、心血管内インターベンション、脳血管内治療、超音波、てんかんなど、技術、診断、治療、病名、症状等に関するものなどさまざまです。

 さて、あらためてなぜ新しい専門制度が必要なのでしょうか。1つは各学会が独自に制度を構築しているために基準が不統一で質のばらつきがあります。これを標準化していこうということです。2つ目は多種多様な専門医が乱立し、国民にとって非常にわかりにくい状況となっており、これを整理して理解されやすいものにしていく必要があります。3つ目として現状は個々の学会による認定ですが、これを医療界として認定していかなければならないと思います。また、卒後研修の観点からは初期臨床研修は必修化されているものの、その後の専門研修のしくみがないため、統一的な後期専門研修のしくみが必要であるということです。

 これらの問題は皆さんご理解いただいています。問題はこれらをどうしていくかということだと思います。

 厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」の報告書が4年前に公表され、新しい組織(日本専門医機構)の設立が明記されました。その目的は学会の運用ではなく、第三者機関として制度の統一化・標準化を図ることです。また、専門医が乱立している状況に対して、基本19領域を取得してからサブスペシャルティ領域を取得しましょう、さらに医師はいずれかの基本領域の専門医の取得が基本としています。そのために総合診療専門医をつくり、基本領域に位置づけたほか、第三者機関で認定した専門医を広告可能とする、もう1つはプロフェッショナルオートノミーでの構築、国の介入を受けることなく医療界のなかで完結したいということです。

 では、新たな専門医制度は何が新しいのでしょうか。1つは効率よくカリキュラムを達成し、質の高い専門医を育成するために研修プログラムを作成します。もう1つは研修施設群を形成してローテイト研修を行います。これが大きな問題となっていますが、報告書では「大学病院等の基幹施設と地域の協力病院等が病院群を構成。研修の質を担保しつつ、地域医療に配慮する」としています。

 もちろん新しい仕組みへの危惧もあるかと思います。大都市中心、大病院・大学病院中心の制度で、地域の医師偏在が加速し、医局が復活するのではないかという批判的な意見もありました。

 日本専門医機構の理事は、日本医学会連合、日本医師会、四病院団体協議会、全国医学部長病院長会議からそれぞれ2名ずつ出してもらい、そのほか学識経験者には一般住民や患者団体の代表者も入り、中立性を担保しています。ちなみに理事、監事は全員無報酬です。

 新理事会の基本姿勢、つまり機構と学会の関係ですが、両者が連携して専門医のしくみを構築しています。機構ですべてを決定し、学会はそれに従うような上意下達の関係ではありません。また、役割分担を明確にしています。学会は学術的な観点から責任をもってプログラムを作成する一方、機構の役割としては領域学会に対してチェック機能、調整機能を果たし、専門医のしくみの標準化を図っていきます。

 昨年12月に承認された新整備指針の制定は特に重要です。基本領域、サブスペシャルティ領域、地域医療への配慮、その他に分けられますが、それぞれの改定のポイントをお話します。

基本19領域の研修については原則として研修プログラム制で行います。ただ、領域等によっては研修カリキュラム制も可としています。また、基幹施設と連携施設等の研修施設群を形成してのローテイト研修の実施や、診療に従事する医師は原則として、いずれかの基本領域の専門研修を選択し、その領域の研修を受けることを基本とするとしています。

 一方、サブスペシャルティ領域の研修は、プログラム制、カリキュラム制のいずれも可で、研修施設群の形成は必須ではありません。基本領域とサブスペシャルティ領域との連動研修も認めています。これにより基本領域の実績をサブスペシャルティにカウントすることができます。

 3番目の地域医療への配慮についてです。まず基幹施設の基準は原則、大学以外の施設でも認定される基準とするとしています。以前は指導医が10名以上など厳しい基準を出していましたが、専攻医実績が350人以上の内科、外科、小児科、整形、麻酔、精神、産婦人科、救急についてはできるだけ認めていく方針です。

 また、専攻医の集中する都市部の定員について、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡は原則、過去の専攻医採用実績の平均を目途としています。もし偏在などが生じたら毎年見直していくということも規定されています。さらに基本領域における研修プログラム制ですが、義務年限を有する卒業生、地域医療に資することが明らかな場合、出産・育児・留学などで合理的な理由がある場合などでは、各学会の判断により、カリキュラム制でも研修を可能としているのに加え、関連施設のほかに連携施設等を設けるなど研修の質を確保できれば、指導医が不在でも研修可としています。

 最後のその他では、基本領域における複数の専門医資格(ダブルボード)の取得を認める、連携施設での研修が3カ月未満にならないようにする、更新基準は地域で活躍している医師にとって過度な負担にならないようにする、といったことを定めています。

 平成29年度の専門研修プログラム申請状況は合計で3,088件。総合診療は419の申請があり、360に絞りました。

 ここからは総合診療専門医について少しお話したいと思います。当初は幅広い疾患の初期対応と継続治療を行うプライマリケアに加え、予防・保険活動や在宅診療、看取りなど地域への健康問題に対応していく2つの機能を有する医師を想定してスタートしたのですが、「家庭医に近いのではないか」との指摘があり、現在は家庭医機能のほかに、病院総合診療医と僻地・離島でもなんでも診られる医師、もちろんこれらをすべてカバーするというわけにはいきませんが、この3領域のコアとなる機能をつくり、それを有する医師の育成を掲げています。総合診療専門医のイメージは非常に幅広いですが、例えば病院総合診療医は臓器別専門医の揃っていない病院で活躍できると思いますし、LTACを有する病院でも貴重な戦力になると思われます。

 総合診療専門医の研修プログラムの枠組みに関しては、内科研修(1年間)と小児科(3カ月)、救急(3カ月)、そして選択研修(6カ月)、さらに総合研修診療として中小病院・診療所(在宅診療を含む)と一定規模の病院(総合診療部、総合内科など)での研修がそれぞれ6カ月以上、というふうにようやくまとまりました。内科研修は内科専門研修の1年目と同等、小児科と救急も当該専攻医と同様になっています。ただ、都市部への集中が懸念されましたので、へき地に行くプログラムを優先しています。

 総合診療専門医プログラムの審査状況です。先ほども紹介しましたが申請数は419に対し、一次審査合格は360プログラム。募集定員は一次審査の段階で1,112名です。やはり都市部の定員を絞るべきということで、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡の合計は268人、上記以外の地域で844人の募集となっています。

 さて、総合診療専門医は基本領域専門医の1つとして、来年4月からスタートします。最終的には全国に10万人ほど必要といわれていますが、今の定員数で養成していくとだいぶ時間がかかります。そこで今後は、他領域からの参入のしくみ、例えば各診療科の医師が一定の年齢に達した後に研修を経て地域医療に従事するしくみをつくっていきたい。併せて総合診療医の他領域における専門資格取得のキャリアパスもぜひつくっていきたいと考えています。

 地域医療の担い手はといいますと、現在は地域の病院や診療所の医師が支えている、まさに先生方がそうでないかと思いますが、今後の高齢化に対応していくためにはまだまだ足らないので、先ほどの他領域の専門医から総合診療専門医になっていただく流れをつくって、今後養成される総合診療専門医とともに診療所や中小病院、あるいはへき地に従事していただく、そして地域医療を支えていく必要があると考えています。

 専門医制度改革の基本理念をあらためて申しますと、専門医の質を担保できる、患者に信頼され受診のよい指針になる、専門医が「公の資格」として国民に広く認知・評価される、医師が誇りと責任をもって患者の視点に立ち自律的に運営する、地域の医師偏在を悪化させない。このようなことが挙げられると思います。

 よく専門医制度の弊害として指摘されるのは、自分の専門領域以外の患者は診ないということですが、幅広いジェネラルの裾野の上により高いレベルのスペシャルティを築くことが専門医の基本です。また、専門医である前に医師であるということ。この2つは今後も強く訴えていきます。

 最後に専門医研修と地域医療についての私見を述べさせていただきます。専門医研修は初期臨床研修と異なり、診療科別のプログラムで行われます。研修領域は基本とサブスペシャルティを合わせて34領域。

これに対して年間の研修医数は約8,500人ですので、平均すると1領域あたり250人となります。実際には診療科の偏在、また解消に努めますが地域の偏在もあるため、県によっては専門医が1人も養成されないということが現実に起こります。そのことを踏まえて、専門医研修は34領域でバランスよく育成する、そして養成は5~10年の長いスパンで考えていく必要があります。

 まだまだご納得いかない部分はあると思いますが、全員が100%同意する専門医制度のスタートは非常に難しい。70%くらいで始めて当面は毎年、大胆に見直しを行っていきたいと思います。ありがとうございました。

 

〇定光:大変ご苦労されている様子がひしひしと伝わってきました。何かご質問はございますか。

 

〇質問:後期高齢者の患者がどんどん増えており、そういう患者さんは1つの臓器が悪いというケースはあまりありません。臓器別より総合診療専門医を多く養成していくべきで、諸外国では3~4割います。先生には努力していただきましたが、医局となると総合診療の医局がないのでその辺りが心配です。

 現場では実際、複数の臓器を診ています。しかしどうも日本は総合診療医が臓器別専門医より下という風潮がある。臓器別専門医も総合診療がある程度できるということを前提にすれば非常によいのかなと思います。

 

〇吉村:毎年300人ずつ専門医を養成しても10年でようやく3,000人ですから必要とされる10万人には到底足りません。そのために臓器別専門医のサブスペシャルティとして総合診療専門医をとるなど、臓器別から総合診療へ流れていくようなしくみをぜひつくりたい。総合診療専門医が地域に根づいてくれば広まっていくのではないか。何とか先生がご指摘されたような形にしていきたいと思います。

 

〇定光:吉村先生、ありがとうございました。

 

(了)

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