日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第5回研究大会 開催報告

大会長講演



DPCデータ提出の意味するもの


座長:上西紀夫(公立昭和病院院長)

講師:小山信彌(東邦大学医学部医療政策・渉外部門特任教授)

 



〇上西:大会長講演は「DPCデータ提出の意味するもの」ということで、東邦大学医学部医療政策・渉外部門特任教授の小山信彌先生にお話いただきたいと思います。それでは小山先生、よろしくお願いいたします。

 

〇小山:「DPCデータ提出の意味するもの」ということでお話させていただきますが、私の後に講演される鈴木医務技監のお話の副題にもありますように、「変わるのは今だ」という時代に突入しています。

 診療報酬改定は平成14、15年まで医師会と厚労省の綱引きのなかで決められてきましたが、DPC制度ができてからはデータを基に診療報酬を決めていこうという流れに変わったと思います。その意味でDPC制度は大きな意味があります。

 急性期病院の先生方はDPCについて馴染みがありますが、慢性期の先生方はDPCで知らないこともあると思いますので、DPCの提出が何を意味するのかを少しお話いたします。話の内容としては、DPCの概要、データ利用の実際、DPCの考え方の3つです。

 まず制度の概要について、なぜDPCが導入されたのか。これは私の個人的見解ですが、医療保険制度の崩壊の危機が平成8~10年に指摘され始め、その後の小泉政権では1兆2,000億円の医療費削減を行うという話もありました。医療保険の自己負担率が一律3割になるきっかけをつくったのはこの時だと思います。それでも日本の皆保険制度を守ることができない、その崩壊を防ぐ1つの方策としてDPC制度が導入されたと考えています。

 その一番の目的は、出来高制度の欠点を是正することによる医療費の効率的使用です。出来高制度にも査定はありますが、基本的には重軽症度を問わず診療した分だけ請求できる制度は過剰診療につながりやすい。これを抑制するために包括制度が導入されました。

 医療費の透明性の確保も目的の1つです。それまではレセプトしか医療費の実態を示すものがなく、さらにデータの蓄積がありません。なぜならこの制度が導入されるまでは診断名はさまざまだったわけです。私の専門である心臓を例に出しますと、心筋梗塞で入院している患者さんが年間何人いるかがわからない。心筋梗塞でなくても虚血性心疾患でも急性心筋梗塞でも保険に通る。さまざまな名称がついている。それをDPCという分類を使って全国統一の診断名ができあがったことが大きなインパクトになりました。そのことによってデータを蓄積できるようになったのです。

 そして何よりも一番の目的は医療の質と安全性の確保です。なぜ医療の質が確保できるかというと、先ほどのDPC分類で全国のデータを集めることによって、標準的治療を確立できるからです。

 一例を示します。17大学病院の「肺がん・手術あり」でDPC導入時と現在の平均在院日数を比べると、DPC導入時はかなりばらついていますが、DPCが導入され、他の病院がどういう治療を行っているかを知ることでどんどん収れんされ、現在はどこの病院に行っても同じような入院日数で同じような結果が得られるというように変化しています。

 狭心症でも導入時の在院日数は病院ごとにばらつきがあり、またトータルの平均在院日数は12日を超えていましたが、現在は5日まで短くなっています。まさにこれが医療費の削減につながっているのです。

 なぜこういうことができたのかというと、最初にお話したとおり、DPC分類が全国共通で定められたからです。それをベンチマークとして使うことにより自分たちの病院の立ち位置を知ることができる。そういった意味でDPCデータは非常に重要ということです。

 次に制度の概要ですが、皆さんご存知のようにDPC制度は、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価です。このときに議論になったのは、欧米のように1入院当たりにするのか、1日当たりにするのかということで、最初1入院当たりで試行的に実施してみると、入院期間のばらつきが改善されなかった。そういう経緯から1日当たりの定額報酬、すなわち現行のDPC/PDPSが導入されたと理解しています。

 DPCは平成15年に始まりましたが、平成28年4月1日現在、病院数でいうと1,667病院、病床では約50万床、全一般病床の約55%くらいの病床がDPC制度で評価されています。

 同制度の基本的な考え方は、あくまでも平均的な医療資源投入量に見合う報酬を支払うということになっています。個別の症例では差が出てきますが、個別に考えるのではなく、疾患全体の平均で対応しましょうということです。ただ、平均的な症例との乖離が大きい例外的な症例も存在するため、それはアウトライヤー(外れ値)としてきちんと対応していくという話になりました。

 包括評価の基本的な考え方としては、包括評価(定額点数)の範囲に相当する出来高点数体系での評価を準用しています。包括評価といえども、常にデータが提出されますので、出来高点数に換算したものを評価として戻すというところが、この制度の根幹です。

 どういうことかいいますと、検査、画像診断、投薬、注射などは包括評価ですので、最初にコンサルタント等が「コストを安くすれば病院は儲かる」と飛びつきました。しかし、その方法は通用しません。なぜなら検査や画像診断にかかったコストはエビデンスとして蓄積され、2年ごとの診療報酬で再評価されるからです。つまり、データの提出は、自分たちの行った医療がいいのか悪いのかを含めて、いずれ自分たちに戻ってくるということをぜひご理解いただいきたい。

 DPC制度が複雑になっている要因の1つが医療機関別係数です。これは病院ごとの設備などが異なる、例えばMRIやCTを持っている病院と持っていない病院では提供される医療はおのずと違ってくる。そういう個別の評価をデータから引っ張ってきて、医療機関別係数のなかに入れたということです。逆にMRIもCTもシンチもできる状況にもかかわらず、しかるべき治療にそれらが使われなければ、その病院はできないという評価が下されてします。これがDPC制度のもう1つの根幹でもあります。

 「診断群分類点数表」に話を移しますが、日本の診断群分類は「診断(Diagnosis)」と診療行為(Procedure)等」の2つをコンビネーションして分類をするのが基本です。その分類はICD-10で疾病名を定義し、診療行為により、例えば「手術したか、しないか」などで枝分かれしていきます。診断群分類は14桁で構成され、最初の6桁で病名を示し、その後に手術や処置があったか、副傷病、重症度等が該当するかなどが記され、1人の患者さんに14桁の数字が一個ずつつけられます。もう1つの特徴としてDPCは1つしか診断できない。それはこれから見直していく必要があるのかもしれません。

 DPCにおける提出種類です。様式1は患者さんの個別情報、Eファイルは出来高情報、Fファイルは医療行為の詳細報告書、DファイルはDPCコーディング、そして前回から加わったHファイルは医療・看護必要度という内容になっています。

 診断群分類の最初の6桁の意味についてあらためてお話します。この6桁が全国共通であることが一番大きく、この制度のすごいところです。最初の2桁をみるだけで総合病院や専門病院など病院の特徴がみえてきます。次の4桁を比較することによって、手術か内科治療なのか疾患の標準的治療法がわかります。

 加えて疾患の成績や合併症の発生率も比較できるほか、DPCと出来高、疾患別コストの比較もできます。そして何といっても病院間の比較(ベンチマーク)ができる。隣の病院と比べて自院の疾患構造はどうなっていて、どのくらいのコストがかかっているのかを比較できるのが、この制度のすぐれたところでもあり、こわいところでもあると感じています。

 2番目のデータ利用の実際に移ります。DPCデータとは何かということですが、産業医大の松田先生によると、分析可能な全国統一形式の患者臨床情報と診療行為の電子データセットとおっしゃっています。様式1は患者臨床情報、すなわち患者基本情報、病名、術式などが書かれていますが、ここに郵便番号も入っています。つまりどの地域でどのような疾患が発生し、どの病院で治療を受けたかが見えてきます。

 さらに診療行為情報がE、Fファイルに出てきますので、1入院中のプロセス、例えば医療材料や医薬品をいつ、何を、どれだけ使ったかがわかります。これらが先ほどの14桁の後ろにデータとしてついています。

 このDPCデータをどう有効活用していくかですが、例えば、ベンチマークによる診療の透明化、さらに病院機能を見直すデータとしても使えます。病院ごとの各疾患のシェアもわかりますので地域として医療体系を整えていくということにも使うことができます。何より大事なのは、われわれが出している診療実績を次の改定の原資としているということです。収益だけを求めるような診療行為をしていると問題が起きてくるのです。

 したがってDPCデータを活用することにより、自院の強みや弱み、特徴を把握できるので、病院が目指す方向性がわかる。ここがこの制度のポイントかと思います。

 一方、厚生労働省のDPC分科会では、データを使用してDPCごとに評価を行います。例えば出来高と比較しながら、現行の評価が正しいかどうかを検証しているわけです。さらに基礎係数や調整係数の設定もこのデータから導き出します。そうなるとDPCデータに正確性が求められますので、適切なコーディングが行われているかどうかをみていくのですが、どうみていくかというと「外れ値」を評価し、制度の精緻化と不適切な医療の見える化を図っています。病院の行っていることは、ほぼ丸見えということをご理解いただければと思います。

 具体的には、「医学的に疑問だとされる可能性のある疾病」について、他の医療機関と傾向が著しく異なる医療機関に対し、アンケート調査を行います。ここでは播種性血管内凝固症候群(DIC)を例に挙げていますが、そうすると対象となった病院の6~7割は「間違えていました」と回答します。しかし問題は実際DICの治療をしていないということが多い。

 その不適切な行為が次の診療報酬で跳ね返ってくるわけです。その結果、DICは最初1万点ついていたのですが、「なんちゃってDIC」が入ってくることによって、現在は3,000点までに下がってしまった。さすがにこれはまずいので、DICの診断のためには診療録を提出するなどのルールをつくっています。

 また、がんの化学療法をDPCの特定入院期間をすぎてから実施するという事例も判明し、改定では「入院日Ⅲまでに化学療法が実施されない場合は、入院期間Ⅲを超えた日以降も当該患者に投与する抗悪性腫瘍剤等の当該薬剤料を算定することはできない」となりました。このように外れ値をみることでさまざまなことがみえてくるわけです。データ分析はこうしたことを引き起こすということをご理解いただきたいと思います。

 DPCにおける医療の考え方をまとめますと、DPCは包括評価ですが、その根拠はエビデンスベースです。したがって評価の大きさは自分たちの診療実績によります。また、医療機関別係数は医療機関の特性を評価するものです。DPCデータを使って自分たちの得意分野を見極め拡充していくことができますが、拡充するためには収支にとらわれずに行っていくことが肝要で、それが次の改定で病院の機能、特徴として評価されると考えています。

 また、データ提出によってすべての医療行為は透明化されています。そして自分たちの行った医療行為の実績(エビデンス)に基づいて評価されます。例えば、行き過ぎたコスト削減が評価されると医療の裁量権を失いかねない一方、良識のある最適な医療提供が評価されることにより快適な医療環境をわれわれの手でつくっていくことができるのです。

 以上を踏まえて、地域包括ケア病床のデータ提出に照らし合わせみますと、すべての医療行為がE/Fファイルに記載されているため、各診療行為のコストが明確になります。それが次期診療報酬改定の評価につながってくるわけです。

 地域包括ケア病棟の役割としては、①急性期病床からの受け入れ(ポストアキュート)、②緊急時の受け入れ(サブアキュート)、③在宅・生活復帰支援の3つが挙げられています。地域包括ケア病棟協会の機能評価委員会によりますと、その現状は、今年6月時点で1,942病院、約6万床が地域包括ケア病床の届出を出しています。これからどれくらい増えていくかは、次の改定で厚労省が同病床にどういう価値をみるかによって変わってきます。

 すでに多くで指摘されていますが、平成28年度地域包括ケア病棟の機能等に関する調査によると、サブアキュートが12.3%、ポストアキュートが63.5%。問題は後者の内訳で院内からの受け入れが83%、院外からが17%となり、これをどういうふうに考えるべきか。ポストアキュートの自院からの転入は本来の目的と合致しているかということですが、確かに7対1を減らすという観点からみれば良しとすべきかもしれません。

 一方、他院から受け入れている病院もあり、この2つが同じ評価でいいのか。あるいはサブアキュートとポストアキュートが同じでいいのか。その辺のところがDPCデータを使うとそれぞれのコスト計算が可能になってきます。平成30年改定ではおそらくポストアキュートとサブアキュートで実態がみえてくるということになります。

 したがって、これからは病院の収益向上を期待した安易な地域包括ケア病棟への転換は、危険であると考えるべきで、転換するのであれば患者さんのために、あるいは地域に必要との理念を重視していく方向性に移行していく必要があると思います。

 まとめですが、最近の診療報酬改定はデータに基づいて行われており、そのデータとは皆さんの診療実績です。DPC制度の目的をよく理解して施設ごとの最良な医療提供を行っていく必要がありますし、標準的な治療を確立しつつ自分たちの特徴を出していく必要があります。病院ごとに安全で安心で質の高い治療戦略を立ててください。DPC制度はそれを評価していきます。

 地域包括ケア病床においても、急性期と同様のことが行われるだろうと思います。いずれにしても皆さんがデータを提出する意味は、医療の透明性、公平性、効率性が良くなるということと、自分たちの行っている診療の実績が次回の診療報酬改定の原資となっていくということを頭に入れながら、データ提出をしていく必要があります。ご清聴ありがとうございました。

 

〇上西:病院を運営していると目先の利益というか、いろいろなことを考えてしまいますが、それは結局、後で自分の首を絞めるということになりますので、非常に貴重なお話だったと思います。質問をお受けします。

 

〇質問:DPC病院ではない出来高算定の病院もまだ多いですが、それらの病院のデータはどのようにとられるのでしょうか。

 

〇小山:大事なご質問ありがとうございます。一般病床の55%がDPCですが、逆に45%がDPCを算定していないということです。DPCを算定しない7対1、10対1の病床もあります。地域包括ケア病床を含め、これらの病院にはデータの提出が義務づけられています。さらに慢性期病床に対してもインセンティブをつけて、大体4分の1がデータを提出しています。傾向としては全病院の7~8割はDPCデータを提出していくことになっていくのではないかと推測しています。DPC制度では評価するときに根拠がある。包括とはいえすべて出来高ベースですので、説得性がある点数です。だからそのような方向に進んでいくと思います。

 

〇質問:診療報酬についてはクオリティの評価などにシフトしていかないと質も効率も上げていくのは難しいと考えています。諸外国の制度はクオリティ評価に向いていると思いますが、それがどうなっているのかお聞きしたい。

 

〇小山:やはり結果が問われるようになってきました。リハビリなどは顕著で結果が悪いと9単位を算定できず、6単位で打ち切られる。それが少しずつ浸透してきていますので、少しずつ結果が問われる医療になってくると思います。患者さんが良くなり元気になって退院していくことが評価の対象になってくる。しかし、そのメジャーをどういうかたちで測るかはこれから議論していく必要があります。

 

〇質問:現行のDPC制度は慢性期病床になじまないところもあるかと思いますが、慢性期的なDPC、あるいは在宅医療ですら今後データの提出が必要になってくるかもしれませんが、その辺の先生のお考えをお聞かせください。

 

〇小山:慢性期病床としてDPCをどう捉えていくかですが、慢性期にはいくつかの特徴があります。1つは入院期間が長い。その途中で患者さんの病態がどんどん変わってくる。それをどうやって評価するか。もう1つは、死亡率が高い。急性期のDPC病院は2%くらいですが、慢性期は4割近くとなります。この辺を考慮しながら制度をつくっていく必要があると思いますが、最終的には慢性期もDPCのような制度を導入したほうがいいと考えています。

 

〇上西:「精緻化する」というお話がありましたが、あまりやりすぎると複雑になりすぎるところもあるかと思います。

 

〇小山:まさにジレンマです。不適切な医療を“モグラたたき”していく作業ですが、“モグラたたき”ばかりしているとやりにくくなってしまう。先ほどの化学療法の例ですが、実は大学病院からクレームが入っています。大学病院は重症の患者さんが多いので期間内に抗がん剤を投与できないというわけです。あまり叩きすぎると逆に医療も委縮してしまう面もありますので、制度の精緻化についてまだまだ検討していく必要があります。

 

〇上西:どうもありがとうございました。

 

(了)

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