日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第3回研究大会 開催報告

《シンポジウム》
これからの地域医療連携
司会:定光大海(国立病院機構大阪医療センター救命救急センター診療部長)
    池端幸彦(池端病院理事長)
シンポジスト:井川誠一郎、早坂由美子、佐野晴美、小澤陽子

〇池端幸彦座長
  井川先生からは大阪の連携ネットワークの話をいただき、3人のMSWの方から連携のあり方とそれぞれの立場でお話をいただいた。
いろいろお聞きしたい、議論をしたいところはあるが、皆さんが共通で言われたことは認知症、精神疾患の患者をどうしていったらいいかということ。皆さんも考えている一番痛い、答えが出ないところかと思う。このへんについて、井川先生から一言ずつ、こんな事を考えているとか、こうしたらいいとかあったらお願いしたい。

〇井川誠一郎
  痛いところを最初から突いてこられた。
  急性期病院そのものに精神科がないところが結構あり、そこでの十分なコントロールができてない。認知症に関して言うと、徘徊が一番困って、ある程度動けるというのが困ることである。それに対する対応というのは、今のところできるだけ抑制をしないという話をいただいているが実際にそれをやると事故を起こしてしまうという。
  認知症に関するのリポートを見ていると、認知症の徘徊で転倒、骨折というのは月に1回、2回出ているので、それに対しては明確な結論は持っていない。

○池端幸彦座長
  精神科の先生で、単科で連携に入っている病院があると聞いているが。そのへんはどうなのか。

〇井川誠一郎
  非常に元気で精神科のみで対応していただける方については利用させていただいている。精神科以外の部分での治療は難しいということで、それ以外の治療が必要ならワンポイント他院に置かしていただくか、急性期病院で少し長めに居ていただいて、精神科に転院していただくという事をしている。

○池端幸彦座長
  大学病院の立場からはどうだろうか。

〇早坂由美子
  認知症に関しては大学病院では、本当に認知症かというのを医師に診断を付けてもらっている。せん妄なのか認知症なのかわからないが、本当に認知症だったらグループホームも使えるので、まず一つは診断を付けるということが大切。
北里大学病院では東病院に認知症の疾患センターがあるので、そちらで診断を付けてもらうこともある。実際に家に帰る方に関しては一番有効なのは小規模多機能を持っている介護サービスと伝え、それを使う。それ以外ではいざとなったら泊まれるという、そこにつないでくれるようなケアマネを選ぶ。
  特養で認知症を受けるというところが少しずつ増えているので、そういう所を見つけて、家族のほうに紹介をして、家族もそういう所があるとわかると、家でもう少しデイサービスなどで頑張っていこうと思ってくれる。そのような形になっている。

○池端幸彦座長
  認知症って、本当に急性期で1カ月くらいで何とかコントロールできる。そのあと認知症だったらケアを持っている病棟なり施設だと見られると。あとは小規模多機能だとそれなりにいいかと思われる。佐野先生、いかがか。

〇佐野晴美
  早坂先生と同じである。当院はすぐそばに精神科の単科病院があるので、そこと連携して急性期治療を少しやっておきながら、いったん精神科に行ってもらって、何かあったら夜でも何でも戻してもらう。変な話であるが、ピストンしながら支えて行く事を取り組んでいる。

○池端幸彦座長
  急慢連携もそうであるが、精神科の病院との連携、密な連携、ピストンみたいな連携も大事だということで、療養病床の立場からはどうか?

〇小澤陽子
  井川先生と同じであるが、ただ認知症のスタッフがいろいろ進めている。ネットワークで何とか解決ができたらと思っている。

○池端幸彦座長
  昔は病院にはいなかったはずなのに、今は急性期病院にそういう方がどんどんいらっしゃる。この現実、どう思うか。

〇井川誠一郎
急性期病院から転院してくる患者は、本当に薬でドロドロになっておられる方がたくさんいる。ほとんど昼間から寝ているという。リハビリしようにもどうにもできない。命をまず考えないといけないからだとは思うが。

○池端幸彦座長
  ご意見ありがたく頂戴する。次の話で何か特に取り上げてほしいところはあるかどうか。どうだろうか。

〇小澤陽子
  救急との連携で、明らかにわかるのが、療養病床とその他の病床が患者のアセスメントが違う部分であり、大きいと思っている。地域包括ケア病棟や回復期に向かって医療区分から変えていかなくてはいけないとなっているが、アセスメントに関してはどうしていくのかと思っている。

○池端幸彦座長
  大事なテーマだと思われる。アセスメントの仕方が違う病棟同士の連携は非常に難しい。どのように感じているか。

〇佐野晴美
  アセスメントツールが違うというところで、非常にそのへんは頭を切り替えていく作業が必要だったりしているなと思う。ここが一つのツールになっていくと、より連携がしやすくなって行くのかなと思っている。

〇早坂由美子
  先ほど佐々木室長がおっしゃっていたように、これから療養の区分とか境界が整理されるほうが、みんなの共通理解が進むと思っている。どうしても酸素を吸っていれば療養に行けると思うと、酸素を切らないほうが療養病床に行けるという訳のわからないことを医師に言ってしまう。付いていない方に付ける事はないが、今、1リットルで酸素を吸っているんだったら、そのままのほうが療養病床に行けますと言ってしまうのが現状である。

〇井川誠一郎
  基本的にアセスメントツールが違うというのは、あまり私自身は感じていない。その患者が来た時、目標をどこに持っていくかという話から始まるので、高橋先生が提唱しておられる、まあまあ医療みたいな。
私の場合、まあまあ医療という言葉が嫌いなので適度な医療と言い換えているが、例えば高齢の90歳の方に厳格な心不全の治療をするということはやるべきではないと思うし、それを急性期でやってきたとしたら、それを制してあげるのがわれわれ後方支援をしている病院であると考えている。
  そこの時点で1回、アセスメントというのを取り払ってリセットをするためにわれわれは転院していただいているんだと思って、今は注力している。

○池端幸彦座長
  その通りだと思っている。酸素を付けたら医療区分3というのはおかしいだろうという話も出てきている。次の改定では大変厳しくなるのではないかということになっている。血糖値を測ったら医療区分3、2というのもおかしいという話になっている。
  原点に返って、本当にどういう患者をどう受けてどう帰すべきか。そういう意味で地域包括ケアで取れると、そこが医療区分1、60日の医療区分1でもいられる。そういう患者をそこで見ながら帰していくという機能として上手に使うこともできると個人的には考えている。そのへんを含めて、今日はいないが厚労省に提言していければと思っている。

〇定光大海座長
  今回のテーマとして長期急性期機能という言葉があったが、これを担う医療機関ないし病棟はどこになるのという事を、突き詰めればそういう事であるが、長期急性期というのは、継続的な急性期に相当する治療を必要とするのであるが、これは半年も1年も続くものではない。
言ってみれば地域包括ケア病床で縛られる羅列というか、そういう具合の範囲内で決着が付けるという設置をという事になるので。
  これを今までのような長期急性期病院がそういったのをずっと見ているというのは難しい時代だと。だからこういう人たちをうまく流すために機能分担をする事は重要だと、今回よくわかった。
  そういう分担をする時に患者が話をするという時、ソーシャルワーカーの皆さんの力は社会制度を含めてすごく大きい。ですからその担い手として、今日、シンポジウムに来てもらった意図はソーシャルワーカーの人たちが前面にそういう活躍をしていただきたい事もあり、ここに登壇いただいた。今日、発表をいただきまた勉強をさせていただいたが、本当に感謝申し上げる。
  一つ、急性期から地域包括ケア病棟に移るのはそんなに敷居は高くなさそうであるが、最後におっしゃった、慢性期からこの制度を持っていくのは大変なエネルギーがいるのかなと思っている。このへんはどうだろうか。武久先生にお聞きしたい。

〇武久洋三
  今日一日聞いていて、地域連携だと急性期があって慢性期があり、別に急性期のほうが偉いとは思わないが、やはり患者は急性期から発生する。その時に引き受ける回復期なり地域包括ケア病棟、慢性期が選り好みしていたのでは連携はできない。
  だから井川先生の大阪の分布で、だんだん日にちが長くなり、拒否する患者も増えてくるというのは全く意味がない。認知症の問題もそうだし、それからモンスター。それから入れ墨を入れている人とかいっぱいいる。いるけれども、その人が急性期、または三次救急でいることの弊害のほうが慢性期で受けるよりも大きいと私は思っている。
  だから同じように社会性として受けると、そういうややこしい事を含めてみんな受けないとMSWが患者を選んでいたのでは全然駄目である。MSWはそういう事をしてはいけない。連携が言われたら、すぐその日から。次の日に受けないと。
  もともとその連携というのは三次救急で30床や40床くらいしかないところで、すぐいっぱいになってしまって本当の救急を受けられない、これは社会的問題だから、それは何とか療養病床でできないかなということで始まったと思う。それが普通の連携に成り下がっているような感じがする。
  やはりその場で取ってあげるというような時間制、そのくらいの気持ちがないと受ける側が、貧乏くじを引いたら、例えばモンスターだったら、慢性期のほうへ来て文句を言って、訴訟になると。
すると貧乏くじを引くが、こんな事を言っていたら連携はできないと思うので、慢性期側としてはとにかく時間によってできるだけ早く引き受けてあげるという事が急性期医療のある事の一つの大きな原因になるので、このLTACというのは、STACからLTAC、5日、6日で手術をして退院すると。すぐ受けてくれた人、すぐ次の患者が入ってくるという時にさっと受けてあげないと、結局は地域住民のためにならないという話だ。

○池端幸彦座長
  皆さん、頑張ってすぐに受けましょう(笑)、という事になるが。
  ここにいらっしゃる方はそういう事で日夜努力されている方だと思うが、今日、また3人に立場の違うMSW。MSW同士で重なってネットワークをやるという、そのへんはどうだろうか。そういう取り組みは?

〇早坂由美子
  相模原市では相模原市の医療ソーシャルワーカーの会というのが100回を超えて、講師を招いたり、介護の関係の人たちと話合いをしているということで、常にやっている。

〇佐野晴美
  神奈川県であるが、神奈川県のソーシャルワーカーは地域のケアマネージャーと精神保健福祉士の三福祉会で連携ということを3種で取り組んでいこうということで、今研修活動をはじめている。バラバラにやるのではなくて、共有していって、力を合わせていくことが必要だということを感じている。

〇小澤陽子
  枚方市は創設30年くらいになるが、枚方市ソーシャルワーク研究会があり、枚方の病院のソーシャルワーカーの多くが入会していて、非常に相談しやすい顔の見える状態になっている。

〇池端幸彦座長
  入院分科会ではNSWの方、重要だと。さらにデータを出してきて、それを専任にしようか専従にしようかという話も出ているので、是非今後とも協会ともども頑張っていただければと思う。
  井川先生、最後にこの大阪連携ネットワークであるが、できれば全国に広げていきたいと思うが、なかなか広がっていかないというところ、コーディネーターの体制、そのへんも含めてこれを全国に展開する場合、どうしたらいいかを最後に教えていただきたいと思う。

〇井川誠一郎
  時々質問をされるが、いつも答えというのは非常に難しい。というのは、先ほど示したように療養病床と一般病床の比率が全然違う。各都道府県で全く違うので、一概に大阪府で成功したから例えば高知県へ持っていって成功するかどうか。高知県は全部が療養病床というか、一つの中でほとんど完結させてしまうので、ほとんど成り立たない。宮城県へ持っていくと今度は療養病床が全然ないので、一般病床だけでかつ市民病院みたいにそこだけで完結させてしまう。
  だからそれぞれ地域性に応じた連携を組まざるを得ないと。一応大阪ではわりときっちりとした連携が取れて、長い間皆さんの協力をいただきながらやっているが、それがベストだとは思えない。各地域で違うのだろうと。

〇池端幸彦座長
  ありがとうございます。先ほど武久会長が言ったように、LTACというイメージからすると、本当は地域包括ケアは60日よりもっと短い機能を急性期と高度急性期と連携するというのが本来の目的なんだろうと思う。

〇井川誠一郎
  当院で帰っていただいている患者は3割ちょっとである。2カ月くらいで退院できている方。普通に帰った方でも2年、3年くらいかかってようやく帰れる方もいるので、そういう方というのはLTAC機能から外れてしまうので、LTACとして実際に地域包括に移って看護できる患者というのは3割くらいという感覚である。

〇池端幸彦座長
  ありがとうございます。まだまだ議論したいところであるが、最後に一言ずつ感想でも結構なので話をしていただきたい。

〇小澤陽子
LTACという病態の患者像がなかなか浮かばなかったが、今日一日、皆さんのお話を聴いて、そういうほうに向かっていかないといけないなという気が非常に強まった。ありがとうございました。

〇佐野晴美
  今日はありがとうございました。武久先生が最後に言っていたすぐ受けるというのは心に響きまして、ソーシャルワーカーがひるんでいるんじゃないという言葉が、私にとってガツンときた言葉で、これを目標に明日から頑張ってみようと思うが、院内のチーム医療というところで、医師、看護師、病院自体の考えを統一してやっていくんだということで。
  ソーシャルワーカーだけでなく一体化していく、そしてそれを地域と一体化していくということが非常に重要だと思うので、そういった力も、地域と病院の力を一緒に付けていく何かやっていかなくちゃいけないということで、今日は元気をいただいた。感謝申し上げる。

〇早坂由美子
  私は急性期の立場であるが、武久先生が言ったようにすぐに受けてもらえる関係性を日頃から築くというところに貢献していきたいと思った。今回の大会を通して、方向性としては一つ見えてきたような気がするので、とても元気づけられた。感謝する。

〇井川誠一郎
  私はこの会を通じてLTACから退院したあと、どうやって病院に戻さないかという事が非常に重要だと思った。ソーシャルワーカーの方々が非常に熱心に返していただいたとしても、そのあと戻ってきたのでは元のもくあみで、実はケアマネという存在が非常に重要なんじゃないかと。ケアマネに手を抜かれると、リハビリを全然してくれないという事になりかねないので、ケアマネ教育というのも今後これから重要ことではないかと考えている。

〇定光大海座長
  以上、皆さま最後までたくさん残っていただいて、この研究会に参加いただいて、お礼を申し上げる。病床機能分化と長期急性期機能というテーマで1日やらせていただいたが、何となく見えたところとまだよくわからない所もあるかと思う。引き続きこの研究会、来年は東京で行われるが、今後、地域医療構想も出てくるだろうし、来年は診療報酬の改定がある。医療現場は非常に慌ただしい局面を呈するのかもしれない。
しかし、われわれは来る患者を一生懸命見て、その患者を適切な地域に、適切なところに移動していただいて、クオリティーの高い生活に戻っていただくということを基本にして頑張っていかなければいけないと思う。ご清聴感謝申し上げる。


(了)

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