日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第3回研究大会 開催報告

《特別講演1》
病床機能報告制度と地域医療構想(ビジョン)
座長:小山信彌(東邦大学医学部医療政策部・渉外部門特任教授)
演者:佐々木昌弘(厚生労働省 医政局 地域医療計画課 医師確保等地域医療対策室 室長)

 

〇佐々木昌弘
  今日は理解するのが困難だと言われている病床機能報告制度や地域医療構想をはじめとした、昨年からの医療法改正について先生方と直接やり取りする機会をいただき、心からの感謝を述べたい。
  今日ご理解いただきたいポイントは、まず30年前から始まった医療計画制度がなぜ我が国に必要なのか。そしてその流れをくむ昨年の法改正は何を狙ったものなのか。この法改正で位置づけられている地域医療構想、さらには病床機能報告制度がどういう相対関係になるのか。そして最後にぜひ皆さんご自身が今後、どういうことをしていくべきかを考えていければと思う。
  医療法は昨年が第6次改正で、もともとは昭和23年、終戦から3年弱たった際に、医療機関の量的な整備が急務という背景に制定された。ただし、もともと戦前の明治7年に医療制度、「医制」が制定されるなど、我が国は明治維新以降から医療提供に関する法体系があった。終戦後にGHQがやってきて、アメリカ的な公衆衛生の思想の元、昭和23年に新たに医療の法体系を整えた。
一言で言うと、病院に求められる最低限の施設基準、人員配置基準等がしかれた。病床の整備が急務な中で、粗製乱造するわけにはいかないので、まずは最低基準を作ったのが昭和23年の医療法だった。
  最低限の基準を作る、粗製濫造しないという発想が、その後の昭和36年の国民皆保険、昭和48年の老人医療費の無料化といった流れをくんで、今から30年前、昭和60年には全国的に見れば病床の量的な整備が達成された。しかし、医療資源の地域偏在は課題として残った。この地域偏在を是正するには、方法論が二つある。一つ目は足りないところに新規参入をさせる。二つ目はすでに足りているところから足りないところに資源を移してもらう。
  前者はもともとの昭和23年の発想からすれば、粗製濫造させるわけにはいかないため、基準を緩めて足りないところに新規参入させるという方法はとれない。そこで、足りているところの新規参入制限、集中排除をすることによって、足りていないところに医療資源がシフトするような政策、医療計画を立てた。そしてこの医療計画の中の病床規制という形で、30年前に法改正された。つまり最低限の個々の病院の基準や医療法に、新たな性格として、医療資源の適正配分、適正分配といった考え方が加わったわけである。
  つまり医療計画の本質は、方法論としては病床規制だが、目的としているところは医療資源の適正配分というところにある。その後の法改正を見ると、単なるベッド数だけが適正配分されればいいというものではなく、さまざまな内容が含まれる。
例えば特定機能病院や療養型病床群といった形の医療の中身、内容に着目し、またそれが医療機関同士、さらには住民の目から見てもわかるように、それを名称付けしていき、要件を定めていった。
  直近である平成18年の第5次改正では、4疾病5事業という形で、主な病気や主な医療の行為について役割分担が明確にされた。また今回平成26年の改正も、医療資源の適正配分や、医療機能の分化、連携という言葉になるが、一言で言えば医療機関の役割分担を図っていくということをより明確化している。以上が今までの30年間の法改正の歴史である。
  この間、平成12年に介護保険法がスタートした。平成17年の介護保険法改正で地域包括支援センターを市町村が設置することになった。これにより、昭和の頃からあった退院後の医療に関する概念である地域包括医療・地域包括ケアという言葉が、地域包括ケア、地域包括ケアシステムという形で、この10年で一気に広がった。ただ、おそらく多くの方にとっては、きっかけが介護保険法改正であったため、地域包括ケアは介護の世界の言葉という受け止めだったと思う。かつ、もともと介護保険法は医療も含めたものである。しかしなんとなく医療の世界から見ると、介護も地域包括ケアも遠い世界かもしれない。
  この間の政策やこうした心理的背景も踏まえて、昨年、医療法と介護保険法を同時に改正する際に、さまざまなメニューが含まれたが、目指すところは医療提供体制を効率的かつ質の高いものに再構築すること。それとともに、地域包括ケアシステムを構築していく。この二つのことを同時に進める。これが一番大事なことである。
個々のサービスのメニューや、また介護保険法でいうと特養の新規入所が原則要介護3以上になったといった内容もあるが、目指していく姿は同時構築にある。
詳説すると、地域包括ケアシステムという日常生活を営む場面の中で、かかりつけ医、ケアマネ、さらには介護保険事業者。もちろん医療の中には病院も含まれている。ただ、この姿を各地域で実現していくためには、住民である患者の視点からすれば、いざという時に一次医療、二次医療、三次医療をちゃんと診てくれる、そしてお医者さんがいてくれる、という安全や安心の裏付けがないことには、ご家族も含めて地域で暮らしましょう、ということは机上の空論になってしまう。なので、地域包括ケアシステムを医療体制が重層的に支えていく、この姿こそが目指していく姿になる。
  一方で入院医療の側から見ても、今は診療報酬の関係もあって平均在院日数が短くなっていると思う。どうしても退院の際に、たとえばMSWの方が「退院しましょうね」という話をしても、本人もまだ治りきっていないし、ご家族もちょっとこのあとを考えると、というふうに、退院調整が困難な問題が出てきている。
  つまり入院医療、医療提供体制側から見ても、退院のことを考えると、かかりつけ医の誰々先生に紹介状を書いておきましょう。退院してすぐに介護保険の認定を受けるためにケアマネさんと退院前から打ち合わせをしましょう、ケアプランを作ってもらいましょう。そういった関係づくりが必要になるというわけだ。
  しかもここからが重要だが、法律を作る時に「地域の実情に応じて」という言葉を入れた。これはなぜかというと、おそらく平成になってすぐの頃までは「○○モデル」というものを作って、そこに向かって全国一律でその姿を目指していきましょうという方法が典型的パターンだった。
つまり、足りない状況である時に満たされた姿を目指していく時には、マスプロ型の政策が有効となる。みんなまだ整ってないんだったら、これがゴールだからこのモデル事業、モデル地域を目指して頑張りましょう、といったやり方のほうが効率的である。
  しかし最近の全国各地の状況を見ると、システム、ネットワークは必ずしもできていなくても、プレイヤーはおそらくほぼすべての地域でそろっている。医療資源も整っている。すると大都市など一部の今後も需要が増えるであろう所を除いては、いかに今の姿をリモデルしていくか。そんな政策が必要になってくる。今の姿は、仮に同じような人口規模、同じような人口構成の2つの地域であっても、すでに医療を含めたプレイヤーの相互関係がそれぞれ異なる。となると、もはや画一的なモデルを示すよりは、今のプレイヤーの人たち、今の医療資源や地域資源の中でリモデルしていくことが、結果的には一番理想的であり、効率的である。
従って、「地域の実情に応じて」という言葉が地域包括ケアシステムの定義にも入ったし、そして今回の医療法改正の中でもそれぞれの地域で違う医療提供体制になることを前提としており、地域医療構想の策定ガイドラインの中でも、47都道府県あれば47通りの地域医療構想ができあがる。344の二次医療圏があれば344パターンの進め方がある、ということを繰り返し申している。
  地域ごとにリモデルを進めていく方法を考えてみる。進め方は大きく分けて二つある。一つは欧州のほとんどの国がそうであるようにパブリックセクターそれが地方政府なのか中央政府なのかはあるが、公権力という形で医療資源の適正配分・分配、さらにその先のリモデルもやるという考え方。そしてもう一つはプライベートセクター。それぞれの地域の実際に医療を提供している病院を中心に自主的に進めていく。この二つの道がある。
  我が国はWHOなどから世界一の保健医療システムと評価され、さらに健康寿命も男性が1位、女性世界1位。また毎年WHOが平均寿命の算出をしているが、直近の発表では男性3位、女性1位だった。プロセスもアウトカムも世界一と言ってよいと思う。
  こうした我が国の医療システムを考えると、諸外国と比較して最大の違いは、規制的な政策と競争的な政策のベストミックスにある。例えば医療財政で言えば、昭和36年の国民皆保険によって、ほとんどの病院は保険診療で経営している。つまり医療費そのものは、診療報酬改定率によって、パブリックセクターが青天井にならないような仕掛けとなっている。また参入の規制がないことによる偏在や、資源が分散することによって中身が希釈するということは、30年前の医療計画でクリアされた。
  一方で患者さん、住民のみなさんが受けている医療はフリーアクセスなので、8割の民間医療機関、2割の公立公的病院が競争的に質を高めることによって、費用対効果の高い医療を受けられている。
また、健康寿命や平均寿命についても世界トップクラスであることは事実であり、制度の違いでいうと、日本は提供側が競争的に高め合っているが、大きな医療財政的なものは比較的コントロール下にあり、それによって国民は比較的安価に良質な医療が受けられる。
  では、どうすればベストミックスのメリットを生かした形で、各病院が競争的な中で適切な判断できるのかを考えてみる。今までもそれぞれの地域、それぞれの病院が適切な判断をしているが、冷静に客観的に考えると、本当は情報量が圧倒的に足りないと思う。なぜかというと、たとえば他の業種のマーケティングを考えると、他の病院がどんな医療をどれくらいの患者に行っているのかという情報は必要となるが、今までの法律では入手できない。10年後、どれくらいの患者さんがいるのか。この推計も少なくともパブリックセクターが出した推計はない。これらの解決策を、法改正で盛り込んだ。
  つまり病院運営や法人の経営の判断をしていただく以上、判断材料が必要になる。まず、ほかの病院の実態を知りたいことに対応するため病床機能報告制度が導入された。そして10年後どれくらい患者さんがいるのかということに対応するため地域医療構想が導入された。これらの情報を元にして地域の中でのポジショニングをしてもらい、その地域の中でのポジショニングについてより確信を得る、より分担の打ち合わせができる。そのために二次医療圏を原則とした構想区域で話し合う協議の場、知己医療構想ガイドラインでは調整会議をネーミングしたが、この協議の場を医療法で位置付けた。
  協議の場が必要になるのは、病床機能報告制度と地域医療構想はみんな同じ情報を元に判断するわけだし、なんと言っても病院経営を考える時には収入をどれくらい見込むかが大事で、それも診療報酬という画一的な価格となる。
つまり、同じ情報をみんなが持っている時に、同じような判断をしてしまう。ポジショニングしたつもりがみんな同じ方向に行けば、結果的に役割分担もできてないことにもなるし、ポジショニングも相対的な場所は変わらないことになる。なので、それをちゃんと調整する場面が必要だということで、協議の場が法律で位置づけられた。
  もう一つ、収入を考えることについてだが、これは診療報酬でほぼ規定されてしまう。つまり価格設定が自由にできない。そうなると、たとえばこの地域の中で何が必要なのかというデータを基にポジショニングするが、どうしても埋まらないポジションが出てくる可能性が高い。その埋まらないポジションをやってもらうためには別の財源、別のイニシャルコストの補填が必要になる。それが新たな基金、地域医療介護総合確保基金である。
  この新たな基金は、平成21年度から5年間存在した地域医療再生基金に性格似ているが、再生基金は目の前で起きている医療崩壊を食い止めるといったテーマについて、トップダウン型の決め方を各都道府県でしていただくのが最もリーズナブルな決定プロセスだった。ところが新たな基金は、地域医療構想ができる来年、再来年くらいからは、それぞれの地域の中での埋まらないポジションを、という決め方になるので、それぞれの地域からのボトムアップ的な決定プロセスが望ましいことになる。
  次に、知事の権限強化について考えてみる。結論から申し上げると、病院の自主性優先の政策をとる中で、お互いの約束を守らないところが出てきたら非常に不都合となることから、約束破りが出てきた場合、民の中での力ではどうしても限界があるため、そこで初めて公権力としての知事の権限強化を位置づけた。プライマリーに知事の権力があるわけではなく、あくまでも自分たちで決めていく。そのことを裏打ちするために、知事の権限強化がある。
  さて、経営判断の話を強調してきたが、自分はあまり経営に携わってないから関係ないというわけではなく、どうすればすべての医療関係者、できれば住民にも関心を持ってもらえるか、そこをどう工夫したかを紹介したい。
  その前に、2年目、2回目の病床機能報告制度が来週から始まるのでその話をする。地域医療構想の検討会で、昨年の報告も受けて今年度の留意点を8月にまとめてもらった。この中で、特に二つのことを強調した。一つは、回復期機能はリハビリテーションを行っていない場合も含まれるということだ。リハビリを行わなくてもある程度治療が落ち着いた段階であれば、回復期機能であるということ。そしてもう一つは、高度急性期については比較的一つの病院が全部の病棟を高度急性期にするという傾向があったが、画一的な判断をしないで、それぞれの病棟ごとで判断してください、ということを明記した。
  病床機能報告制度は特に理解困難との指摘をいただくので、この制度が始まるまでの背景も含めてご理解いただきたい点を補足する。まず議論を始めたのは3、4年前だったが、急性期の役割分担をどうするか、ということがテーマだった。その後、一般病床を中心とした急性期だけでなく、療養病床も含めて議論すべきではないか、とテーマが広がり、さらには病院だけでなく有床診療所も含めて議論すべきではないか、と広がってきた。つまりもともとは急性期を切り分けることから始まった議論だった。
  さらにこの議論をしていく中で、厚生労働省の医政局、保険局の診療報酬もそうだが、病院ごとに役割を明らかにしようとしてきた政策との整合性が議論の対象となった。例えば、7対1は病院単位で算定という政策がある。
  全国あまねく見てみると、地域によっては一つの病院、もしくは二つか三つの病院ですべての二次医療圏の患者さんを見るというところがある。
私が臨床医をしていた秋田県の横手二次医療圏がまさにそうで、病院が四つ。一つは精神病院。残りの三つは厚生連病院と公立病院が二つといった地域だった。公立病院二つのうち一つは、合併前は旧郡部の病院だった。そうなると一つの病院が複数の機能を持つということが必要になってくる。なので、病床機能報告は、病院単位ではなく病棟単位で選ぶことにしようということになった。
  次に病床機能報告制度がなぜ病床という言い方をしたかというネーミングの点であるが、これはそんなに難しい話ではなくて、医療法では病床という言葉しか使ってこなかったからだ。たとえば病床区分も、精神病床、感染症病床、結核病床、療養病床、一般病床のように、法律で出てくる言葉は病床という単位なので、病床という言葉を使って、機能報告制度になった。まずこれが、なぜ病棟単位なのに病床なのか、という答えになる。
  次に悩ましいのが、病棟が実際に担う機能である。結果的には、それぞれの病床で治療を受けている患者さんを点数で区切ることによって、地域医療構想の将来の患者さん推計を行った。そこがたぶんまた混乱してしまうところで、つまりそれぞれの病棟には病期でいえば急性期の患者さん、回復期の患者さん、中には慢性期の患者さんもいる。複数の病期の患者さんが混ざっているのが当たり前である。
たとえばきっちり各病期の患者さんが3分の1ずつ入っていたらどの病棟を選ぶのかということになるが、あくまでも病床機能報告制度で求めているのは、この病棟はどういう患者さんを受け入れることを前提としてスタッフを配置し、または病院としての機器や構造を整えているのか。つまり「こういうことを自分の病院、病棟はやるんです」という報告を求めているのである。結果として患者さんがその病期の患者さんだけとは限らないわけだから、あくまでもこの報告の趣旨は病院、病棟の運営方針としてどの病期を基本的にターゲットとしているのか。そこを報告していただきたいというものである。
  ただ患者さんの治療に必要なスタッフ、機器や構造と、病院側が「こうしたい」ということでそろえたスタッフ、機器や構造とずれがあると、昭和60年の法改正の理由にもあったが、医療資源の適正分配、適正配分を考えると、その分の余剰が出たり、また不足が出てくるわけである。なので、目指そうとしているこの四つの機能のスタッフなどの運営方針が、実際の患者さんの今の数、将来の数がちゃんとマッチしているのかということを確かめていただきたいという制度設計になっている。
従って、今日のテーマである「病床機能報告制度と地域医療構想」。これをマッチングさせていただきながら、自分の病院、そして地域全体の役割分担を考えていただき、その先にあるのは、できるだけ医療資源の過不足がないようにしましょう、という考え方につながるわけである。
  昨年10月からこれだけの情報を年に1回報告をいただくことになった。医療の世界は閉鎖的だと批判する人は、他の業種も含めて少なくないが、昨年10月からこれだけの情報が病院、有床診療所ごとに、いわばディスクロージャーをされるわけである。全産業を見ても、これだけのものがディスクロージャーされているものは医療界だけであろう。
  逆にいうと、これだけ大きな改革を先生方みなさんと一緒にしようとしているわけである。だからこそ、なぜこれをする必要があるかということの共通理解が必要になるし、先生方みなさんの病院の運営、職員のみなさんのやる気を維持するためにも共通理解が必要になる。そして、自分の病院の患者さんのニーズと合った職員の配置、そして医療機器等の購入をしていただきたいし、そのためには地域の他の医療機関と自分の病院との相対的な関係を把握していただきたいということに、この制度の根幹がある。
  なお昨年10月の病床機能報告の分布は急性期に偏った結果だったが、これは推測できたことだった。なぜかというと、判断するのにまったく情報がなかったからである。つまり他の医療機関と自分の病院との相対比較のデータもなければ、将来のことを考えた時におおよその分布の情報もない中で報告をいただいているわけだから、そもそも「回復」という言葉は医学部や看護学校で習っても、「回復期」という言葉自体がたぶん平成12年診療報酬改定で回リハ病棟を作ったあたりから出てきた言葉だと思うので、どうしても昔習った「アキュート」「クロニック」という言葉で頭が二元化されているのは仕方ない。その結果、回復期はどうしても選ぶところが少ないというのが相場だった。
  ところが今年10月に報告をいただく際には、他の病院の選択した情報もわかるし、また10年後の数字ではあるが、だいたい4機能がどんな分布になるかもわかった上で報告していただくので、事実上は去年と今年と比べて診療報酬改定もないし、法律が通っての施行の準備で制度そのものも大きく変わっているものはないが、他の病院や将来分布推計の情報に接することによって、おそらくこの分布は動くだろうことが予測される。
  地域医療構想については、医療計画の一部として位置づけた。地域医療構想の最大の売りは、10年後に患者さんがどれくらいになるのかが読めることだが、どれくらいのデータの細かさで読めるか説明する。
結論から申し上げると、高度急性期という名前を借りて出来高3000点以上の患者さん。急性期という名前を借りて600点から3000点。回復期と名前を借りて600点から175点。慢性期についてはカウントの規格が別のため、まず高度急性期、急性期、回復期については今言った点数で区分した場合に、かつそれを二次医療圏ごとに患者住所地のパターン、医療機関の住所地のパターンだけではなく、厚生労働省が各都道府県庁に送ったデータの中には、DPCのMDC分類ごとの90パターンほどの病気、たとえば「悪性腫瘍・呼吸器・手術あり」とか、「心筋梗塞・手術なし」とか、そういった形で、がんがMDCの18分類。心筋梗塞、脳卒中、肺炎、高齢者に多い骨折、そしてその他の病気もMDCの18分類プラスその他、そしてそれぞれ「手術あり・なし」で分けているので、これで約90パターン分けて患者さんの将来推計が可能となっていることが大事だ。自分の患者さん、自分の病院の主な患者さんに着目した時に、しかもだいたいどれくらいの点数の患者さんがいるのか、それが二次医療圏ごとにわかる。これが地域医療構想の、みなさんに判断していただくという政策をとった上での、一番の売りということになり、経営陣だけでなく、自分の診療科や自分の病棟の患者さんのイメージが、各職員にとってもリアルなものとして興味を持っていただけるということがポイントである。
  将来の姿がわかってくれば、地域ごとに10年後への道筋が違うので、10年後に向けた施策も議論してもらえるし、地域医療構想ができた後も、毎年、協議の場、調整会議でこの道をちゃんとたどっているのか、ペース配分を間違えてないのか、早すぎても遅すぎても駄目なので、そういったことを毎年フォローアップできるというところまで制度になっている。
  先ほど申した通り、議論がもともと急性期から始まったこともあり、ロングタームの方がどういう将来推計をするのかということは、正直言って粗い推計になっている。逆に言うと、粗い推計に甘んじた上で、ではどうしたらいいかということも制度設計に織り込んだ。まずどんな患者さんがいて、患者さんは医療療養よりも介護療養のほうがいいのか、それとも老健、特養がいいのか、今は類型にはない新たな類型を作るべきなのか、今の類型だけど基準を変えるべきなのかといった幅広い選択肢を提示していただくことを目的に、7月10日に医政、老健、保険の3局合同の検討会を立ち上げ、年内に幅広い選択肢を提示していただく。そして年明けからは、その選択肢のどれを制度にするのがよいか、ということを、社会保障審議会の医療保険部会や医療部会、介護保険部会といったところに場所を移して議論をしていきたいと思う。
  ちなみに今、医療保険部会や医療部会では来年の診療報酬の基本的考え方を議論していただいているが、それが年内に終わるので、年明けにはまさにロングタームの方を、本来どういう場面で、場所で診るのが我が国の制度として良いのか。足りない選択肢は何なのか。変えるべき選択肢は何なのかを整理していこうと思っている。
  地域医療構想の最終的な仕上がりについて、今年の6月に内閣官公が公表した数字は「何床」という表記の仕方である。「何床」という表記の仕方だから、新聞は「10年後ベッド数1割削減へ」みたいな記事の書き方をしているが、公表した数値はもともと患者数を出して病床稼働率で割り戻した数字なので、10年後、入院患者数と病床数の1割がミスマッチとなるという言い方が正しい。
  つまり、高度急性期のベッド数に0.75をかければ10年後の3000点以上の1日あたりの患者数。急性期に0.78をかければ、3000点から600点の患者数。回復期に0.90をかければ175点から600点の患者数となる。慢性期については0.92をかければ患者さんの数になるが、そもそも医学的な区分ではないので、検討会で議論をしてもらっているというのは先ほど説明したとおりだ。
  地域医療構想を作ってもらっているそばから、療養病床や慢性期は次の選択肢を議論するわけだから、申し訳ない気持ちもあるが、先生方や住民、患者さんに政策を理解していただくためには、段階を踏んでの制度設計が必要になるという政府の判断を示した。
  地域医療構想策定後も先生方みなさんに興味を持っていただきたいということで、二つ説明したい。一つは、病床機能報告制度の結果を毎年3月くらいに公表することによって、自分の病院と地域の病院との比較ができる。自分が主に受け持っている診療科や患者さんの姿を、他の病院と比べることができる。自分は一生懸命頑張っているつもりだけど、他の病院の診療と比べるとまだまだだな、とか、思ったより自分の病院がこの分野は責任を負っているのかという、職員一人一人にも面白いデータにつながるものを、毎年度末には情報を出せるようになっているということである。そうすることによって、改めて地域医療構想で描かれた2025年の姿を読み返していただきたいと考えている。
  もう一つは基金の話だ。地域医療構想ができてくると、足りないところを埋めるという視点からの基金のプランになると先ほど説明した。そこで出てくるのが、自分の病院や自分の地域では思いも付かなかったアイデアとが他の地域、他の病院から出てくることがある。その事業例、メニューリストとして見ると、都道府県ごとの基金の使い方がヒントとなる。
従って、今までのような、たとえば耐震化補助金や近代化補助金といった規格の決まった補助金ではなく、アイデアをどう競い合うか、という性格のものなので、これは職員のみなさんにとっても興味深いものになると思う。
  最後になるが、都道府県知事に何ができるか。先ほどから強調している「足りないところをどう埋めていくのか」というところにキーワードがある。まずベースにあるのは、30年前の医療計画によって病床規制ということで、ベッド数総量規制がそれぞれの二次医療圏ごとにある。その一般病床と療養病床の総量規制の中で医療資源の適正分配。具体的には高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分をしていくわけである。
(1)は協議の場は県庁が事務を担当してください、というもの。(2)は病床非過剰地域についてだが、病床非過剰地域の場合は足りないところをやってください、という条件をつけることができる。②は基本的にはすでに総量規制としての病床数が過剰地域の場合で、
過剰地域ということは、今のベッド数の中でリモデルしていく必要がある。リモデルしていく際に、不足している機能からわざわざ過剰な医療機能に変換することはやめてください、という内容である。世の中で懸念されている、患者さんがいるのに強制的に削減というものではない。2025年の10年後を目指して進めるわけだが、7~9年たってもまだまだ足りないところがあれば、それはある病院に「すいませんが先生のところで足りないところを担ってくれませんか」という話になる。
  ③には病床の削減が入っている。これは何かというと、稼働していない病床についてだが、地域医療構想ガイドラインでは、病棟単位の運営を想定している。病床機能報告制度によって休眠病棟はわかる。その休眠病棟が理由もなく2年も3年も休眠病棟のままということは、医療資源の適正分配を考えると、枠だけ取っておいて医療をやらないわけなので許されない。そういった場合については削減の要請なり、公立公的病院であれば命令をすることになる。これに従わない場合は病院名の公表ということになる。ここまでがセットの制度ということになる。
  講演を終えるにあたり、ぜひみなさんにお願いしたいのは、制度の個別説明をしたが、制度の狙いは医療提供体制と地域包括ケアシステムの同時構築であり、、LTACの病院には両者の結節点を担っていただきたいということである。これは自明のことで、住民、患者さん、福祉や介護、NPOの皆さんのよりどころとなる役割になっていただきたい。
  みなさんが、職員の一人ひとりが思う存分、良い医療ができるように、そのための材料を今回我々はそろえたつもりである。必要な制度改正があれば、厚労省の「療養病床の在り方等に関する検討会」などで対応していきたいので、ぜひ今後も一緒に力を合わせていきたい。

〇小山信彌座長
  ありがとうございました。病床機能報告制度は理解困難であるというお話をいただいた。頭の中のクエスチョンマークがすべて消えたわけではないが、この目標が決してベッド削減だけではなく、機能の概念を含んだ適正配分だというお話だったと思う。
  病床機能報告制度についてはいろいろな注釈が付いて細部の調整が行われるが、またこれを見ながらお話があったようなベッドや機能の適正配分という方向で動いていくということだった。もし質問があればどうぞ。

〇会場(上西紀夫会長)
  たしかに医療の体制はこのようになったが、国民の責務について。それから地域包括ケアシステムの中で住まいについて等、心構えがあると思う。
  実際に病院でいろいろな機能をやっていっても、結局、患者さんや国民の理解がないとなかなか進まないところがある。そのことについて、先生方は今後、どのように対処しようとお考えなのか、方策があったら教えていただきたい。

〇佐々木昌弘
  去年の秋、田村前厚生労働大臣が内閣改造で辞任される際に打ち合わせをした時に、唯一心配されていたのはご指摘の点だった。
  従って、医療法で新たに国民の責務を規定して、地域医療を理解するだとか、適切に病院を選択するだとか、適切に受診するということは、フリーアクセスの前提で病院が競争的に運営、経営している以上、国民がカギを握っている。このため、さまざまなチャネルを使うべきで、厚生労働省が言ったほうが良い場合もあるし、先生方から言った方が良い場合もある。これは本当にさまざまなチャネルを使ってやらなければいけないことだと思う。
  タイミングもあるだろう。あまり早くやると、地域医療構想もできてない段階で患者さんが先生方に話をしても会話がぶれると思うので、タイミングを見計らいながら、国民の理解を進めたいし、もしかしたら、公権力パターンがいいのか、ということも含めての議論をしていく必要がある。

※肩書きは講演時。同年10月1日より文部科学省高等教育局医学教育課企画官



(了)

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