超高齢社会における救急医療について考える

有賀 徹
昭和大学病院

§はじめに

 我が国における人口について長期的には減少傾向にあるものの、高齢者割合の増加と共に救急隊による搬送数は増加の一途を辿っている(図1,総務省消防庁)。そこで、超高齢社会が益々進展するなかで、今後の救急医療について考察したい。救急車による搬送先は多くの場合、クリニックではなく病院である。従って、今話題となっている病床区分の問題も関係することになる。しかしここでは、それらについて直に言及しないが、高齢患者の搬送にあたり、昭和50年代からの初期・二次・三次救急医療施設という医療提供の方法論や、急性期・亜急性期・慢性期といった、発症に続く継時的な分類方法で、これからも対応可能なのであろうか、そもそもそのような思想体系に収まるのだろうか。筆者はこのような問題提起を避けて先に進むことはできないと考えている。このことについても指摘したい。

§救急医療が直面している諸問題

 搬送数増加の理由について急隊員の持つ「印象」を尋ねた結果が(図2)である。第1位の高齢者の増加に続いて、熱中症の増加と、緊急度が低い〜不適正な利用とがある。前者は地球環境の温暖化や日常生活でも熱中症に陥りやすい高齢者の増加が原因であろうが、後者については、生活における格差の拡大が背景にあるかもしれない。外国の例(図3)であるが、確かに所得などの低い層ほど救急車利用の頻度が高くなっている。 より深刻な問題は、搬送先の病院そのものが減少していることである。公的病院に比して、私的病院の減少が著しい(図4)。もともと搬送件数の多い都市部においては、搬送先として私的医療機関への依存が大きい(図5)ので、大都市圏における私的医療機関の減少は大問題である。痴呆の合併があれば一般的な急性期病床への受入れは難しいし、独居であったり、老々介護の状況であったりすれば、自宅へ戻すことも難しい。高齢であるということで、勢い搬送先が決まりにくい。かくして搬送に係る時間も大幅に延長する(図6,東京消防庁)。

§高齢者搬送数の増加とlong term acute care (LTAC)について

  図6をみると、平成24年に搬送された概ね半数が65歳以上である。別のデータでは平成24年において75歳以上は全搬送数の1/3を占める。東京ではこのところ、年に約1万件の増加がある(図6)が、実にその9割以上が75歳以上の年齢層となっている(図7)。65歳以上であれ、75歳以上であれ、全く健康であった高齢者が急病や外傷にて搬送される例もあろうが、何らかの病気を持っていて、ある日ある時に悪化したので救急車を呼ぶとなれば、それは病気の急性期とは言わないだろう。冒頭で、初期〜三次救急医療施設や、急性期云々などへの問題意識について触れたが、実に従来通りの搬送体系で今後もよいのかの大きな問題を図7は雄弁に語っている。このような状況が到来していることから、”地域密着型”病院やLTACの意義は多大であるに違いない。

以上、紙幅の故に今回の示説はここまでとしたい。具体策などは別の機会にと思う。