日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第2回研究大会 開催報告

《シンポジスト②》
熊本における医療需要予測と病床機能分化・連携
-熊本県における医療提供体制の現状と地域医療構想-
岩谷典学(熊本県健康福祉部医監)

〇座長副島:
  病床機能報告制度やDPCなどのデータをいかに活用すべきか、行政サイドからどのように取り組むかについて、熊本県の健康福祉部医監の岩谷典学先生にお話を伺う。今後、各県の力量が問われると言われるので、岩谷先生の力量も問われるのではないか。昔はデータも何もなく、医療計画について作文に近いものが毎年出ていた。ようやくデータに基づいたロジカルな提言がなされると思われる。岩谷先生に頑張っていただきたい。

〇岩谷:
  医療対策は行政だけでできるものではないので、各医療機関をはじめ関係の方々と一緒に取り組む。われわれは、かつて経験したことのない時代に突入するので、皆の知恵を結集して取り掛からなければならないと思っている。
  本県でも、他県と同じように人口減少、高齢化の進展が急速に進んでいる。安心して生活を継続するための医療介護環境の整備が急がれている状況だ。
  本日は3つの項目について話したい。将来の人口動態とそれを踏まえた本県の二次医療圏の現状と将来の姿、次に本県で取り組んでいる救急医療等の医療連携の現状、最後に本県の地域医療構想、新たな財政支援制度への対応などについて話す。
  まず、本県の人口動態について。県の人口は平成10年をピークに減少に転じていて、現在約180万人、これが今後も減少すると予測されている。スライドには2040年まで見ているが、2040年には県の総人口は約35万人、19%減少すると予測されている。
  二次医療圏別にグラフに示しているが、本県は11の医療圏区分がされていて、その減少幅には、圏域によって大きな差が見られる。特に県南の地域、2040年には約40%減少すると予測されている。
  2010年を基準に、人口動態を75歳未満と75歳以上の後期高齢者に分けて圏域別に見ている。2010年を基準に増減率でを示している。本県では圏域によって人口動態が大きく異なる。
  熊本市とその近郊の2圏域を見ると、2040年に向けて後期高齢者の人口割合が大きく増えて6割を超える。一方、県南の圏域では2040年に約半分近くまで減少すると予測されている。
  こういった人口動態を基に将来の病床の状況を見ている。一般病床について、ベッド数が変化しないと仮定して、75歳未満の人口10万人当たりのベッド数を圏域別に示す。グラフには主だった圏域だけを示しているが、熊本県は全国平均より現状でもベッド数が多い状況。2040年に向け、圏域によっては全国との差が大きく拡大してくる。
  療養病床は同様の仮定で、75歳以上の人口10万人当たりのベッド数を圏域別に見た場合、現状でもほとんどの圏域で全国平均を上回っていて、その差は2040年に向けて拡大していくと予想される。
  入院医療費については、国民1人当たりの国民医療費が平成23年度と変わらないことを前提に試算をした。2010年と比較して後期高齢者の医療費を見ると、熊本市とその近郊の2圏域は2025年、2040年に向けて、医療費が大きく増加する。
  一方、県南の地域では2025年、2040年に向けて64歳以下の医療費が大きく減少するため、圏域の総額としても減少する。
  二次医療圏の現状と将来推計について基礎的なデータを示したが、人口動態、病床数、入院医療費で見たように、県内でも圏域によって実情がかなり異なる。今後の医療需要の質、量の変化を予測しながらどのような医療提供体制を整備していくのか、圏域ごとの検討が必要であり、圏域の特性に応じた対策を講じる必要がある。
  次に、本県の医療連携の現状について紹介する。
  まず、本県の救急医療連携について、一次から三次まで三層構造の体制を取るが、特に三次救急として、三カ所の救命救急センター、熊本赤十字病院、熊本医療センター、済生会熊本病院と、熊本大学病院の4カ所で県内全域を対象としている。ヘリによる搬送も行っていて、ドクターヘリと防災ヘリの2機で相互に補完する体制を取っている。
  本県の二次医療を担う医療機関は各圏域に整備されていて、現在84の医療機関が認定されている。三次救急を担う救命救急センターは、3カ所と大学病院があるが、いずれも熊本市内に位置している。
  ヘリ搬送を除く救急車による搬送状況は、平成24年は約6万5000件の搬送があり、その内容は49.6%が軽症、34.9%が中等症、合わせると8割を超える状況。圏域別で見てもほぼ同様で、軽症・中等症を合わせて8割を超えている。重症患者は8%程度。傷病の内訳は脳疾患が最も多く、心疾患、消化器系、呼吸器系と続く。
  重症者について見ると、救急車で搬送される患者のうち8%が重症患者だが、その搬送割合の県平均では、各消防本部が所在する圏域内で完結的に搬送されるのは84.3%、圏域外が15.7%。重症者の36.5%が救命救急センターに搬送されている。3カ所の救命救急センターはそれぞれ600件前後の患者さんを受け入れている。
  各圏域から救命救急センターに搬送される割合を見ると、熊本市圏域は搬送件数が最も多く、3カ所の救命救急センターにそれぞれ2~3割が搬送されている。その他の圏域からは、県北部の場合、熊本医療センターへ、県の東部の地域から熊本赤十字病院へ、県南地域からは熊本済生会病院への搬送が多い傾向にある。本県では3カ所の救命救急センターがそれぞれ圏域を分担した体制が取れている。
  救急医療の現状と課題をまとめると、重症患者は3カ所の救命救急センターで圏域全体をカバーできていて、二次救急との連携が図れている。その一方、救命救急センターに中等症、軽症の患者も搬送されているケースがある。今後、高齢化社会が進むにつれて搬送件数も増加していくことを考えると、三次救急が適正な機能を担う上でも二次救急、一次救急との機能の分化連携をさらに図る必要がある。
  次に脳卒中の現状を示す。脳卒中は急性期医療から回復期、リハビリ医療への連携が特に求められる疾患。本県が自治医科大学と連携して取り組んだ医療資源調査によるもので、レセプトデータを用いて解析した結果を示す。年齢別の受療動向を示しているが、50歳を超えてから受療者が急激に増えていて、65歳以上の高齢者で9割近くを占める。
  脳血管疾患の入院患者数の将来推計を示す。出典は高橋泰先生が報告している「日医総研ワーキングペーパー」からデータを引用している。今後2025年にかけて後期高齢者の入院患者数が熊本県全体で27%増加する。圏域別で見ると、40%前後増加する圏域や10%程度の増加にとどまる地域もあり、圏域により大きなばらつきがある。
  本県の脳卒中医療の連携体制を示す。県内には19カ所の脳卒中急性期拠点病院、79カ所の脳卒中回復期医療機関が指定されていて、2層構造での体制を取っている。本県では、関係医療機関を中心に連携のツールとして早くから連携パスが運用されている。平成23年から県医師会が中心となり県下全域でのパス運用に取り組んでいる。
  川上の急性期拠点病院から中流域の回復期、維持期対応の医療機関、受け皿になる介護施設、在宅への流れを示す。将来的には拠点病院と回復期病院の連携は圏域ごとの将来のニーズに対応した医療提供体制を検討する必要がある。
  今回の診療報酬改定で、地域包括ケア病棟が新設されて、中流域の医療機能を担う病床として期待されている。改定前後の本県の病床の動きを見るため、昨年7月と今年7月の届け出状況を比較する。
  本県は療養病床が多いのが特徴で、その次が7対1、10対1の病床が多い。全国と同じくワイングラス状になっている。この1年で、7対1病床が268床、約5.8%減少していて、地域包括ケア病棟は7月時点で479床の届け出がなされている。
  地域包括ケア病棟・病床として届け出が出ている病院は7月1日時点で14病院479床、熊本市内とその周辺の市町が多い。8月の時点ではさらに7病院の届け出があり、合計21病院となっている。
  在宅医療についても述べる。地域包括ケア病棟が今年度新設されたが、今後こういった回復期の病床の整備がさらに進むと考えられる。川上の急性期医療から中流域の回復期への流れが滞らないためには、受け皿としての在宅医療の整備も平行して行う必要がある。社会保障制度改革国民会議での報告書でもあったように、一連の流れを同時に進める必要があるだろう。
  県内の在宅療養支援病院、支援診療所の状況は、現在24病院と226診療所があり、全国平均を上回っている。在宅医療についての主だった課題を挙げると、在宅医療に取り組む医療機関の約4割が熊本市に集中し、急変時の支援体制、看取りの対応など、まだまだ課題がある。こうした課題の解決に向け、さまざまな関係機関と協力しながら、現在取り組みを進めている。
  在宅医療を進めていく上で、関係機関との連携、特に介護との連携を一体的に進める必要がある。在宅医療と介護の連携は今後、市町村が中心に取り組むことになるので、県としては広域的な立場から支援を行う。
  現在、県では多職種連携の環境づくり推進のため、医療側と介護側の両方から取り組みを進めている。医療側からの取り組みは、在宅医療連携拠点事業として郡市医師会が中心となり推進している。昨年度から事業を開始して、今年度は県内全ての圏域で拠点事業が実施されている。
  介護側からは、市町村と協力して地域包括支援センターに在宅医療連携推進員を配置して、モデル事業として連携の環境づくりを進めている。この推進委員には、医療と介護の関係職種の連携のためのコーディネートをする役割を担ってもらう。
  また、在宅医療の要となる訪問看護ステーションは現在、145カ所でサービスを提供している。過疎化、高齢化が進んでいて、ステーション事業を展開するうえで条件が不利な地域における立ち上げ支援を行っている。4人未満の小規模ステーションが多いので、運営が困難な事業所の支援も行う。利用者の推移は、平成20年度から見ると、現在は全国平均まで伸びてきている。
  最後に、地域医療構想と新たな財政支援制度について、県の取り組み状況を説明する。6月に成立した医療介護総合確保推進法に基づき、都道府県では来年度から地域医療構想の策定作業が始まる。国から策定のガイドラインが示されることになっている。
  先日、厚労省の地域医療構想策定ガイドラインに関する検討会が開催された。これから具体的な検討が始まる。これまでの状況は、厚労省から都道府県に対して、各種統計資料を整理したデータブックが提供されている。先ほどの松田先生が示したのもその一つだが、このデータの活用法に関する研修会が開催されている。
  今後の地域医療構想の策定にあたり、県は医療機関や保険者など関係者が話し合う「協議の場」を設置することになっている。本県での検討体制は、医療計画を協議する場である「熊本県保健医療推進協議会」や、圏域ごとに「地域保健医療推進協議会」を設置しているので、まだ国のガイドラインが示されていない段階だが、こういった場も活用しながら策定作業を進めていく。
  新たな財政支援制度への取り組み状況について。医療介護サービスの提供体制改革のために、今年度から新たに創設された基金制度がある。病床機能の分化・連携に関する事業など3つの分野に関する事業が対象であり、今年は医療分野の事業を実施する。
  県計画の検討状況について。医療関係団体などから多くの提案が寄せられた。関係者と意見交換しながら検討を進めてきた。まだ確定前だが、主な事業を挙げている。
  その中から、ICTを活用したネットワーク事業について紹介する。このネットワーク事業は患者を中心に、医療をはじめ介護予防などにも寄与する高度なネットワークの構築を目指している。その実現に向け、今月初めに医師会など関係団体との協議会を立ち上げ、協議を進めることになっている。
  ネットワークのイメージ図を示す。県医師会に設置したサーバーと各医療機関のゲートウェイサーバーを結び、患者の診療情報、投薬や検査情報を共有して必要な時に閲覧できるシステムの構築を計画している。
  まず医療機関を中心に整備を進め、将来は市町村、医療保険者、薬局、介護施設などにも広げていく構想だ。県としても、医療介護、市町村行政など関係する全ての機関と一緒に患者を見守り支えていく体制の実現に向けて努力していきたい。

〇副島:
  ありがとうございました。県の取り組みや、医療需要予測などについてお話しいただいた。

(了)

ページ上部へ

活動