日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第2回研究大会 開催報告
《指定講演③》 |
大都市、地方都市、地域における医療連携の現状と課題 |
池端幸彦(当研究会副会長、医療法人池端病院理事長・院長) |
〇上西:
最後に、地域で頑張っていらっしゃる先生からの発表です。医療法人池慶会・池端病院理事長の池端幸彦先生から、地域で頑張っている病院で今後の地域包括ケアについてどうされていくのか、問題点は何かについてご発表をいただく。
〇池端:
当研究会副会長の池端です。急性期中心の先生方のお話、私は慢性期しかも小病院の立場からLTACにどう挑戦していくか、そして地域連携にどう関わろうとしているかについてお話しする。
全国津々浦々いろいろな県があり、都道府県別高齢者の増加状況をみると、東京から始まる上位9都府県でこれから一気に増える高齢者の約6割を占めるので、厚労省はまずここをなんとかしようと考えているだろう。一方で恐らく厚労省からはあまり相手にされていないと思われる下から2番目の小規模県の地方都市である福井県、そんな立場からのメッセージということで聞いてほしい。
まず、福井はどこにあるかについて。福岡や福島とよく間違えられたりする。北陸と言われたり関西と言われたり。監査等は近畿厚生局だが、医師会は中部医師会連合。
人口は下から数えて3番目くらい。良いところもあり、都道府県別の平均寿命は非常に高く、共働き率が非常に高く日本一、貯蓄率日本一、社長数もなぜか日本一、さらに幸福度日本一と言われるが、県民は恐らく誰も日本一とは思っていない。他県からすると住みやすいと言われる。更に有名なのは、「かに」でもうすぐ解禁。
当院の周囲は、大雪になるとスライドのようになる。一家に1台除雪車を持っているという地方。その中の越前市が私の地元。福井県全体の人口は80万弱、越前市は8万位、病院は7つあり、200床病院の10:1が2つ。今回、1病院が地域包括ケア病棟を取った。
在宅をやっている方は少ない。市なのに、公的病院が一切ない。患者は病院志向で、圏域外に出ることが多い。診療所の医師の高齢化、介護、リハビリの医療職が非常に少ない。
更に人口密度が低いく冬は降雪地帯であり、診療圏が非常に広範囲で過疎がある。公立病院がない。高度急性期病院は市外に集中している。一方で共働き率が高い、つまり日中独居が多く、医療職不足が深刻で、在宅医療提供機関が少ない、介護事業所は飽和状態。こういった所で、在宅指向はできるのかシビアな課題が多い所だ。
二次医療圏は4つあり、当院は丹南地域。急性期病院は福井市内に集中しており、だから大きな高度急性期は丹南地区や奥越地区からも福井地区の高度急性期に行く。嶺南は遠いので逆に京都の方に行く所もある。二次医療圏はあるが三次医療圏は全県一区。こういった地域の連携は非常に難しい。
越前市で川越先生がどういう訪問診療体系があるのかという調査を行った結果をみると、現時点でも診療所、病院の半分ぐらいは往診体制がなく、エリアも半分ぐらいは、市内は行くがそれ以外は難しいという状況である。
また病院はいろいろな疾患を診ているが、診療所は老衰や脳血管、がん末期までは診るが認知症は荷が重くなるという結果であった。更に神経難病、人工呼吸器、小児麻痺、ここまでくるとどんどん減ってきており、重度の医療が必要な在宅は訪問体制がない状況。栄養管理も経腸までやるのは診療所で半分くらい。IVHにいたっては病院しかほとんどやらない。在宅酸素も病院はやるが、診療所の先生でも荷が重いという方もいる。緩和ケアもほとんどない。看取りも病院はしっかりやるが診療所は少ない。
訪問診療をしている所で、ケアマネージャーが医療機関所属のケアマネージャーとそれ以外とどっちがどうやっているかを見ると、病院は3割だが訪問診療を受けている人は5割という結果で、病院付きのケアマネが訪問診療につないでいることが多い。また要介護4、5になると訪問診療が増えるが、5は診療所の先生では荷が重い状況にある。
こういったエリアの中の在宅支援をどうするかになると、やはり病院の立場でも訪問診療を受けなければならない。この中で地域連携はドクターとケアマネがしっかり連携するのが重要で、さらにそれを広めると医師会と地域包括支援センターの連携が大事だろう。
当市は医師会も市も積極的なので、コーディネーター機能を行い、少しでも在宅できる先生を増やそうということで、医師会の中にコーディネーターを置いて事業としている。またコーディネーターを置くことにより、主治医が決まっていない、遠方の福井市内からの在宅患者をコーディネーターが市の中の在宅をやっている先生にコーディネートして、かかりつけ主治医につなげる方法を行っている。
大事なのは顔の見える連携なので、ここに病院の先生方も最近入ってきて、一緒に顔の見える研修、連携をやっていく。最近は顔が見えるだけではだめで腹が見える連携だろうということで、そういった関係をつくれるように考えている。
当院はすべて療養病床の30床、在宅機能強化加算を算定しており、平均在院日数が65日で医療型としては割と短い。在宅部分をほとんど持っているが、施設は一切持っていない。母が始めた保育園を、2施設引き継いで持っている。
小さい法人で、職員は本年4月時点で120名、常勤医師は3名のみであとは非常勤。ケアマネージャー有資格者は23名、PT・OT・STは15名、管理栄養士を含め栄養科職員は8名。これが特徴で、小さい病院でもこれぐらいのことはできる。在宅療養支援病院を取っているので訪問診療も行うが、田舎のためエリアが広い。市内は他に(訪問診療を)やる先生がいるのでそれ以外の所。一番遠い所はちょっと行くとスキー場となる山間地から越前海岸沿岸まで、直線距離ですら10キロ以上の所もいかなくてはいけない。
効率が悪くて採算性が難しい部分もあるが、そういう隙間産業をやらないと中小病院は生き残れないので、しっかり頑張るしかないと考えている。なぜ頑張るかと言えば、外来に来られない人が増えてくるので訪問でそこを補う事が必要になってきているのが現状である。
病棟は一時、回転数を上げたがあとは難しく、ここをさらに上げるためには地域包括ケア病床への転換しかないのではないかと考えている。通所系は過当競争気味で、経営的にはそれほど楽ではない。
新入院患者の動向は、7割が訪問診療、在宅から入院、他院から2割。退院は6割が在宅復帰、死亡退院が17%、その他となる。在宅復帰率については、「1ヵ月以内」を入れれば89%で、療養病床の在宅復帰率としては高い方であろう。
今後の戦略は、医療介護福祉複合体の強みを生かす。狩猟民族から農耕民族へということで、種を植えていこうということで、いろいろな地域展開をする。「地域包括ケア病床を目指そう」「小規模多機能型医療拠点を目指そう」「地域支援事業に展開していこう」とやっている。
また療養病床においても、やはり医療機能を高めなければならない。餅は餅屋という考え方もあるから、居住系サービスは自身で持つこと以外にこれからは連携も大事だろう。そして病病、病診連携機能の強化や、職員の能力主義的な人事管理も重要になってくるのではないか。
地域包括ケア病床を取得するための取り組みについては、現時点では30床全部、地域包括ケア病棟には難しいが病床としてとることを考えて、ハードルは13:1、データ加算60日ができるかどうかをシミュレーションしながら対策を立てている。
タイムリーにやる必要があるので、院長直属の地域包括ケア推進室を設けて、当院でも選りすぐりの看護師、連携室担当MSWと事務職員の3人を配置して、私と地域包括ケア担当部長(PT)も含めて5人で、地域包括ケア全般について毎週地域包括ケア推進会議を持ちながら行動に移している。
また地域包括ケア病床について、単に病棟の職員が分かればいいのではなく病院全体が理解する必要があるので、全職員を対象にした研修会を計7回開催した。そしてデータ提出加算を取ってなかったので、それを取るべく準備を進めている。
法人内の実績データの収集と解析をすすめ、更に高度急性期病院や連携先病院への当院の情報提供を積極的に行い、またリハ職を中心とした大胆な人事異動を行った。リハ職は現在計15名だが、まず30床の病棟にPT2名、OT1名、ST1名を専属で配置したことで、かなり在宅復帰ができるようになり動きがよくなった。またデイサービス、デイケア、訪問リハ全てにリハ職を配置して常に連携できる体制をとっているので、さらに動きがよくなった。地域包括ケア病床はまだ取れていないが、当初は4床でスタートして順次広げたいと考えている。
地域包括ケア病床取得に向けての取り組みについて、全職員に説明したことを紹介する。どんな患者が入院するのかは、当然復帰を希望し、60日を目指せる患者であり、選択できる余裕はないがそれを中心に在宅復帰率も意識すること。また医療区分1でも重い方、がんの末期でも抗がん剤や麻薬を使わないと医療区分1。あるいは腎不全の腹水がたまって大変な場合でも医療区分1なので、これまで医療区分の関係があり医療療養病床で受けづらかったそういう方を受けられるのではないか。こういう機能は地域包括ケア病床に合っているのではないか。地域包括ケア病床のフローチャートを作り、この通りやろうと全職員に示している。
また病棟以外にどういう影響があるかを考えて、それぞれ外来は外来で、自宅療養患者の救援と緊急入院に関して外来はフォローしなければいけない。訪問系は退院後のフォローアップをする。通所系は、退院した人のレベルが落ちないようにリハをしっかりやろうとか、ケアマネージャーに対しては、要介護認定を少しでも早く申請し、退院直後あるいは入院直後からマネージメントを考えなければいけない。
連携室は、更に機能をアップしなければいけない。連携室の仕事は非常に多くなるが、連携室をどんどん拡張して全て連携室任せにすればいいのではなく、それぞれの医療、リハ、介護、看護がそれぞれお互い連携することで、逆に連携室の機能が狭まることを目的にしなければならない。医師に対しても、この点を求めている。
看護職や病棟ケアワーカーにも、医療的なことが多くなることを伝えたが、ただ病棟だけではなく病院全体の機能がアップしていかないと地域包括ケア病床が運営できないことを全職員に知らせることで、病院全体が若干元気になってきたような気がする。
これからの循環型地域連携システムは、在宅と急性期と慢性期と介護、こういう流れで急性期がよく上に来るが、私はあえて在宅を上に置き、在宅から急性期、急性期から慢性期、こういう流れでこういうこともあるだろう。在宅から直接地域包括ケア病床、療養病床に直接入院して直接帰ることもあるだろう。いろんな連携を考えることが本当の循環型地域連携システムではないか。
その核になるのが、地域包括ケア病床、病棟ではないかと思っている。ただし実現のためには他院との連携も大事だが、まず院内の連携を見直して、院内の在宅、外来、療養病床、通所、介護病床等がお互いを知り合いながら連携していく。ここがしっかりしないと、院外の連携は難しい。ここが要だと思う。それをうまく循環させるのが連携室やケアマネ、地域包括センターで、院内連携で足下を固めて地域連携をしなければならない。
今後の療養病床に必要な三大機能については、まず、療養病床といっても、病院で残る限りは医療機能を高めていく必要がある。13:1をクリアできたのは、それまでも15:1で回していたから。そうでないと平均在院日数を60日で回せない。今でも、13:1でも看護師を増やしてくれと言われている。経営環境が厳しい状況だが、療養病床として医療機能をもう一度見つめ直して高める努力が必要だろう。
更に、在宅復帰、在宅医療支援機能。リハビリテーションはたまたま、4月に4名のリハ職が一気に入り経営は厳しいと思ったが、思った以上に機能が上がってきた。それから最後に看取り機能。この3つ機能を、療養病床はこれから高めていかなくてはいけない。そして、地域包括ケア病床を含めた展開をしなければいけない。
療養病床も「選択と集中」で、医療機能を高める努力をしないと生き残れない。看護配置基準と在院日数も意識していかなければならない。
2011年2月にScience、ここに「HappyPeopleLiveLonger」という論文が巻頭に載った。幸せな人が長生きする。幸せだと思って生きた人と不幸だと思って生きた人をどうやって集めたのかはわからないが、6~7年HappyPeopleが長生きをした。
もちろん短命の方もいるが、平均すると伸びている。幸せな人は長生きするが、長生きの人が幸せとは限らない。そこには本人家族の選択と心構え。そして最期、死の時に「ああ、熊本で生まれて熊本で死ねて良かった」と思えるか。そういうことを支えていくのが我々、療養病床を中心とした慢性期の役割ではないかということを紹介して終わりたい。
〇上西:
地域包括ケア病床について、苦労されている方が非常に多いし、これから大変だと思う。全体の中の流れをどうやって作るか。その中で職員も大事だが、特にケアマネージャーの役割が非常に大きい。
連携職の会議は僕らもやっているが、病院関係の連携職は非常によくやってくれるが、医師会の人が意外に、あまり意欲的でない、このへんはどうだろうか。
〇池端:
私は県医師会の副会長で幹部をやっている。怒られるかもしれないが、医師会に行くと「ケアマネが来ないから」と言うし、ケアマネに行くと「医師が出てこない」となる。しかし最近は双方の意識が高まってきたので、あともう少しではないか。どうしても2、6、2の下のほうの2割を見て非難し合うが、理解している先生も増えてきたので、もう一踏ん張りでいけるのではないか。
〇上西:
互いの理解が進んできていると思う。うまくやらないとたぶん動かないと思うので、頑張っていただきたい。以上で指定講演を終わる。今日は熊本のこの地域に、多くの先生方がお集まりになったことに感謝を申し上げたい。また、このような機会とプログラムを作ってくださった副島先生に厚く御礼を申し上げる。
この研究会で、皆様といろいろなディスカッションをしながら、地域包括ケア病床、あるいはLTACのあり方を勉強しながら提言していきたい。引き続き、ご支援とご協力をお願いしたい。本日はありがとうございました。
(了)