日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第2回研究大会 開催報告

《指定講演②》
大都市、地方都市、地域における医療連携の現状と課題
-地方都市岡山市(県南東部地区)の現状と未来-
土井章弘(当研究会幹事、岡山旭東病院院長)

〇上西:
  続いて、岡山旭東病院院長の土井章弘先生から、地域の中心となる地方都市での現状と課題についてお話を伺う。

〇土井:
  「大都市、地方都市、地域における医療連携の現状と課題」ということで、私に与えられたのは地方都市岡山市、県南東地域の現状と未来ということではないかと考えた。
  岡山県の医師数は全国平均2割上、10万人当たりの常勤換算合計では301人とかなり多い。それでも、現場では少ないと言っている。熊本県と大体同じ人口構成で、岡山県は約200万人で、岡山市は政令指定都市で70万である。西隣は倉敷市で約50万である。県全では病院数は173病院であり、総合病院が10病院。その中に岡山大学と川崎医科大学の2つの大学病院がある。民間精神病院は16病院で、救急は主として岡山精神医療センターが受け持っている。
  岡山市は交通の要所でもあり、山陰、四国から四国高速が入り交通は便利で人が集まりやすい。病院施設と病床数は、県南東部は一般病院76病院、そのうち回復期リハ病院は9病院、回復期リハ病床は467病床である。県南西部は倉敷市を中心として、10病院の回復期リハ病院があり、回復リハ病床599床と多い。一方、岡山市が中心の県南東部は県南西部に比して急性期病院・病床が多く、回復期リハ病棟等が少ないのが大きな特徴である。
  その様な、環境の中で当院は、脳神経運動器の総合的専門病院として医療サービスを提供している。また、同時に、総合画像センター機能も持っている。病床数は202床であるが、1病棟は増改築のために稼動が遅れた。現在162床で脳神経外科、整形外科、神経内科、内科、循環器科、リハ科、麻酔科、放射線科、形成外科、リュウマチ科の10科の診療科をもって地域に存在している。全職員数は542人である。
  関連施設として岡山リハビリテーション病院129床とサービス付高齢者専用住宅(72戸)がある。2011年には地域医療支援病院として承認された。2013年度には、経済産業省の認定になる「おもてなし経営企業選」に全国28会社の中の一つとして選ばれ、この結果を受け職員と共に喜んでいる。
  DPCはⅢ群の中では、DPCの病院医療機能係数が一番高い。神経系疾患のシェア率は24.1%と県南東部ではシェアを伸ばしてきた。平均在院日数は14日と少し長い。
  連携パスを導入後の検証から見る退院支援の問題点は、県南東部はリハビリ病院が非常に少ないため急性期からの流れがあまりよくない。倉敷は倉敷中央病院を中心に連携がうまくいっている。
  当院では、在院日数30日後をみると連携病院への転院待機患者様が、14日以上待機していて、紹介状を出してもなかなか退院できない患者様が34%もいる。県南西部と県南東部で比較すると、依頼から転院までが県南東部は1~2週間であるが、県南西部では倉敷を中心としたエリアでは1週間以内で転院できる。従来の病院完結型というシステムを脱却し、これからはそれぞれの特色を持ちながら連携してやっていく必要がある。専門思考の急性期病院の生き残る道は地域包括ケアシステムの中での連携であると思う。
  選ばれる病院になるには、何か特色が必要である。岡山県には8つの総合病院と川﨑医科大学の医学部附属病院が2つある。岡山県は5つの医療圏に分かれている。1つは津山・英田医療圏で、中央病院が中心的な役割、県南西部は倉敷中央病院、川崎医科大学付属病院が中心的な役割を果たしている。
  岡山県の二次医療圏の患者の動きを矢印で示した。県北は倉敷市や岡山市に入院する患者さんが多く、医療資源が少ない。岡山市には連携ネットワークは非常にたくさんあり協力し合っている。連携パスも、岡山脳・ももネット、連携実務者ネットワーク等があるが、自主的にMSWとか地域連携室とか看護師などがいろいろ勉強をしながらやっている。当院は残業ゼロを目指しているので、行政の人に会議を夜はやってくれるな、昼にやってくれと言うのだが、なかなかそうはいかない。従って費用を出して夜も参加している。
  続いて、岡山県の開設予定の回復リハ病棟を調べてみた。赤磐医師会病院60床が8月1日にオープン。建築中の瀬戸内市民病院30床が回復リハ病棟など、徐々に回復期リハ病棟も増えてきている。LTAC型に移行する地域包括ケア病床の開設予定は139床あるので、結構早く動いているようだ。
  スライドは岡山県保健福祉部医療推進課の則安先生からもらったデータである。「これからは住み慣れた我が家で介護を受けて、訪問看護や医療の支援を受けて、在宅ひとり死ができればよい。一人で死んだからといって孤独死と呼ばれる必要はありません」。当院でも、よく孤独死らしきものがあるが、東京に息子さんがおられて間に合わない、それまで人工呼吸器を付けるわけにいかない。そういう症例のものもかなりあるだろうと思う。在宅ひとりで亡くなるのもむしろ大往生でいいのかもしれない。
  岡山県も在宅医療連携拠点事業を始めている。ケアマネージャーが中心的役割を果たし、在宅療養者、家族の希望に添った最適なサービスを提供できる会社を置く。在宅で亡くなることもこれからは容認していかなければならないのではないか。このスライドのように皆で支え合って最期を迎えることもいいのではないかと思う。
  今話題になっている、岡山大学メディカルセンター構想。2014年3月28日に政府の産業競争力会議の医療介護分科会が開催され、岡山大学の森田潔学長が、岡山大学病院を中核に岡山市内の主要病院を包括するメディカルセンター構想を説明した。人材や設備の効率的な配置が可能となるほか、症例集積や医薬品、医療機器の研究開発基盤が充実するうえに、適切な医療サービスが提供できると述べた。
  これが「非営利ホールディングカンパニー構想」で、岡山大学と岡山市民病院、労災病院、岡山日赤、岡山済生会、国立医療センター、これを1つのメディカルセンターにして効率化を図ろうということだが、1人ひとりの院長に聞いてみるとあまり口が硬くてしゃべらない。しゃべれないという方がいいかもしれない。方向としては、こういう構想がどこに落ち着くのか、多少希望を持ちながら見ている。包括ケアミスマッチの解消や地域包括ケアの効率化に非営利ホールディングカンパニーが有効であるとの意見があるが、アメリカで可能だとしても日本でこれができるのか、経営母体が違うことが大きな問題ではないかなどの議論があるところである。
  中小病院に関するアンケートについて話してみたい。日本病院会の中小病院委員長をやっているので、全国で病院会に加入している1776の中小病院にアンケート調査を行った。その中で地域包括ケア病棟の取得予定が37.2%ありかなり多い。わからないが19.9%。ハードルが高いというのもある。「非常に関心があるし、LTACに移っていきたい」と考える方が多い。
  岡山県は岡山県病院協会があり、173病院あるが97.7%の加盟率。県民の健康と福祉の増進に寄与することが目的であり、互いに病院同士のコミュニケーションがよく、何か一緒にやるときには皆立ち上がってくれる。
  もう一つの動きは、岡山県地域医療部会があり、毎週第一水曜日19:00時から岡山大学鹿田キャンパスで、経営者または岡山大学の教官、官公庁、マスコミなどが集まり、活発に意見交換をしている。今は54の医療機関が入っているが、毎月開催される中でコミュニケーションが取れている。
  まとめとして、岡山市は急性期の病院が多く、それぞれの病院が特色を持って、緩やかな連携を進めていく。回復期リハ病棟、地域包括ケア病棟病床の増加は加速。岡山大学メディカルホールディングカンパニー構想にも注目しなければならない。かなり本気で毎月会議をしている。岡山県病院協会は連携の絆があり、地域医療部会、岡山医師会との連携も良好なので、良い方向に進んでいくことを期待している。

〇上西:
  ありがとうございました。200床の中規模で特色のある病院を運営されているが、全体のメディカルセンター構想と地域医療ビジョンとどう整合性を付けるのかは大変だと思う。アンケートの中の「ハードルが高い」は施設面のハードルが高いのか、診療報酬手当でうまくいかないか、そのへんはどうか。

〇土井:
  おそらく診療報酬より施設だろう。救急指定を取るなど、いろいろしなければいけないのがネックになる。でもやろうとする人はやれると思う。そういう病院にとってはそれしか生き残る方法はないだろうから。

〇上西:
  ありがとうございました。

(了)

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