日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第2回研究大会 開催報告

《指定講演①》
大都市、地方都市、地域における医療連携の現状と課題
-大都市の立場から-
絹川常郎(独立行政法人地域医療機能推進機構JCHO、中京病院院長)

〇上西:
  続きまして指定講演で3名の先生方から「大都市、地方都市、地域における医療連携の現状と課題」についてお話しいただく。地域医療ビジョンの策定に向けて、まだ明確なところがない。ビジョンをつくるうえで、誰が中心になるか、また担う病院にはいろんな種類がある。
  地域性、都市、地方、高齢者が多い地域、へき地。いろいろな問題がガイドラインづくりに関係するが、それを踏まえて今回はそれぞれの大都市や地方で病院運営をされて、今後どうしていくかについてお話しいただく。
  最初は独立行政法人・地域医療機能推進機構中京病院病院長の絹川常郎先生から問題点についてお話をいただく。
  神田先生のお話にもあったが、平成26年~27年にかけて、ガイドラインができる。影も形も分かっていないのでどういうものになるか心配。いろいろな作り方を考えてもらわないと1つのくくりではいかないだろう。そういうことに向けて、この会で検討して地域ビジョン作成のガイドラインになんらかのインパクトを与えたいと思う。

〇絹川:
  中京病院の絹川です。独立行政法人地域医療機能推進機構と長い名前がついているが、最近はJCHO(ジェイコー)という略号を使っている。中京病院は急性期部門が中心で、老健、検診センター、看護学校も併設している。海に近く病院の裏を流れているのは名古屋の堀川。堀川は名古屋城を作るときの運河で、名古屋城は徳川幕府がお金を使わせるため加藤清正に作らせた城。昨日、初めて加藤清正が本気で作ったお城を見せてもらったが、名古屋と熊本のつながりを感じた。
  JCHOは47の社会保険病院、7の厚生年金病院、3の船員保険病院が集まって今年4月にスタートした。400床以上が9病院、200床以下が22病院とかなりバラエティーに富んだ病院群。
  中京病院は社会保険病院から入った。もともと社会保険病院は戦後、公設民営で厚労省が市民病院もできないような地方の小都市に保険医療を浸透させるために作った病院群のため、中小病院が多い。中京病院は例外的に大きくなった。
  JCHOの使命は名前の通り、地域医療、地域包括ケアの要として、全国的な地域医療介護の向上を図り、それらを行う人材を育成すること等だが、まだ具体的にどの様な特徴ある医療を提供できるか模索しているのが現状。取り組む事業は5事業5疾病など以外に地域医療連携に取り組む研究、人材育成を行うこと。
  中京病院は昭和22年12月開設、今年の4月JCHO病院に移った。公称663床だが現在621床で運用中。昨年のデータでは1日の患者数が580人ぐらい。救急車6000台で、主に重症熱傷が運ばれるヘリコプターは16機。中央手術室での手術は9000件、全麻の手術は3000件。職員は1300人、医師200人弱。急性期病院としての主な指定は取っていて、ICUは8床、救命センター42床、あとの病床は7対1。
  平成25年DPCの公開データによれば、名古屋市でDPCの退院患者数は4位であるという自負を持つ。平均在院日数は、DPCが始まった頃は15日ぐらいだったが、ここ5年間で14.0日から11.9日まで短縮した。病院の総収入は、一昨年がDPCバブルのピークでこれからは厳しくなると経営者としては考えている。
  東海道五十三次は宮(名古屋の熱田のこと)から桑名までは海路であった。この宮の渡しが病院のすぐ北にある、つまり当院の所在地は江戸時代は海であった。東南海大地震で津波がくると大変なことになる。伊勢湾台風では数週間水につかった経験もある。医療を担当する地域は、名古屋南部が中心。
  名古屋市は全部で16区あるが、南区の人口は約14万、入院患者の37%はこの南区。隣接6区が36%、それ以外に9区あるが北の方からは5%しか来ていない。名古屋の人口は2015年まで増えてそれから徐々に減り始めるが、南区は既に人口が減り始めている地域で高齢化率は名古屋で一番高い。患者数がこれからどうなるかは経営者としてシビアに考える必要がある。
  スライドは、当地区の骨粗鬆症患者の動向を見るため、製薬会社が提供してくれたグラフで、年齢別、部位別、性別の骨折発症率に南区の人口をかけると、2025年ぐらいまでは患者は増える。
  国もこれから老人が増えて大変だと言っているが、私も同様な手法で計算してみた。2015年を1として、南区の年齢別人口予測に当院の2013年のDPCデータから年齢別患者数をかけてみた。DPCのデータなので実入院患者数より少し低いが、1万5000人の患者が2020年までは大体横ばい、それから段々減る。臓器別に見るとグリーンの部分だけがしばらく現在より増えるが、残りは全部減ることになった。これをもって、自分の病院が同じ地域で同じ患者だけ診ていれば、こういうふうになる事が分かり、これからの必要病床数も計算できるだろう。ただし、在院日数はとりあえず12日としたが、熊本済生会のレベルまで追いつくとあと2割減る。
  ここまでのまとめとして、現在の医療事情は、高齢者が増加して大変だと言われているが、都市部でも場所によっては急性期だけで高齢者を積極的に診なければ病床を減らさなければならない状況にきている。
  そういうことも多少は念頭に入れて、ここ数年やってきた取り組みを紹介する。
  基本的姿勢として病院の2012年版戦略マップでは地域を重要視することをとしている。次に地域の救急に関する取り組みを紹介する。数年前のものだが、名古屋の人口は230万人あるが医療圏は1つなので、便宜上、救急医療は4つのブロックに分けて運用されている。各ブロックに救命センターが最低1~2施設あり、合計6センターある。
  当院はこれまでどういう医療をやっていたのか。救急車の数が多ければいいということではないが、市内で4位の入院患者数を誇っているといいながら、救急車は4位の施設からかなり離された5位。これで地域に貢献しているといえるのか。救急専門医は6名いて、三次救急を一生懸命にやっている。彼らの基準ではどこでも治せる患者は忙しい時は断ることもある。当院には、救急医以外も当直しているし、それで良いのかと、このグラフを見せた。こういうデータを見せられると、救急医はプライドがあり、救急車をもっと受け入れる気になった。
  十分なリソースを持っている病院が三次救急だけをやっていればいいというものではない。救急車受入数を増やすため、先ず取り組んだのが救急隊からの受入要請への対応の改善。簡単なことだが、まず病院交換手を通さないこととした。救急隊からの電話は全て基本的に断ってはいけないと命じられ、研修医に行くか、あるいはホットラインを受ける救急医に届くこととした。どちらに電話するかは、患者の状況に応じて救急隊が考えるので問題ない。交換手を通すと「それは救急科に電話してくれ」とか、「それは一般の方だ」とか、必ず譲り合いがおきる。
  当院の救急車受入スペースは狭く、1時間に5台くらい来ることがまれにあるが、そうなると道路で待つこととなる。救急隊員の希望に応じて、スライドのように直した。そのような形で4000台ペースが6000台ペースとなった。2次医療も受け入れるのが地域貢献だと思っている。
  連携室については特記すべき事はないが、スタッフを増員して今は17人、開業医が診察している時間を意識し、とりあえずサービス時間を17時までから19時までと延長した。ある程度の患者を受けてくれる後方病院の訪問は3年前から始め、また開業医巡りも始めたところ。
  地域医療支援病院なので地域支援委員会を開催しているが、委員として隣接区の医師会長は全て参加してくれる。これに行政関係の人と患者の代表らが入っている。私は、地域包括ケア病棟を今年から開設した病院の連携室長、回復期リハ病院の事務長、地域包括ケアセンター長の3名を昨年途中から増員した。
  在宅復帰率には今のところ苦労していないが、それでも退院調整をする患者が増えてきて1割を超えつつある。転院を要した患者の転院先は、スライドに示す通り。H25年度とH26年4月~6月の比較では、大きな変化はない。10月からはかなり変化するかも知れない。職員に聞くと、地域包括ケアを開設した病院からは老健への入所者の紹介が減ったとか、地域包括ケア病床を有する病院に患者を紹介しようとしたが、本当に退院可能かと念押しをされたというような話を聞く。
  世話になっているリハビリ病院から、当院に胃瘻を作ってくれるかとの問い合わせ。地域包括ケアの病院に頼んでいたが、最近は断られることが多いとのこと。当地区はまだ移行期の混乱状態にあると考えられる。仲間のJCHOの病院にも地域包括ケア病棟を開設した病院があるが、そこの院長にも運用を上手にやらないと難しいという言葉を聞いている。当院はそういう施設と仲良くしなきゃいけない。一方、自分たちは長期入院の原因になるような合併症を作ってはいけない。
  リハビリ療法士の病棟配置は今年から点数がついたが、当院は1年早く去年から開始した。脳外科や整形外科、呼吸器科の病棟はリハビリをきちっとやれるが、消化器の病棟は入院すると絶食、安静の指示で廃用萎縮が多くなりやすく、リハビリには無関心な病棟であったので、まずここに技士を常駐させた。
  医師に対しては、小児科以外、すべて高齢者の診療がきちんと出来なくてはならない。その一環として後期研修医を長寿医療センターにお願いして認知症の研修をさせている。
  最近、南区の病院の病病連携の会を開催した。院長、事務長、看護部長でも誰でも構わない、複数で集まっていただいた。具体的なことがあれば集まりやすいだろうと、各施設が困っている在宅復帰率を正確に計算することなどの目的もあることを主意書に書き、参加を募った。結果、12ある病院すべてが参集してくれた。
  ここで国の方針の微妙な変化に関しても議論した。3年前の厚生労働省作成の絵では、住民が自ら医療と介護を選択するシステムであったが、今は、中心にいる住民を地域独自のシステムで、適切なサービスにアクセスできるように変化した。このように、H26年の改定では患者・利用者が真ん中にいて、どこに行くべきかも地域でお世話するということを、みんなで確認して、病院同士の情報交換は必須だが、この患者の行き来を誰がシステムとして作ってくれるか、行政はすぐには作ってくれないだろう、自分たちで何かしなければというその場の結論になった。
  南区は、全部で2300床余の病床があり、中京病院が660床。地域包括ケア病床は9月の時点で94床、これはまだ少ないと思っているが、今後どうなるのかまだ不確定。南区を相手にするだけでは中京病院はやっていけないが、とりあえず仲の良い病院が集まって親密に情報交換が出きることは重要。最初の会は病院のトップが集まったが、事務だけの集まり、看護師の集まり、連携室の集まりなど下部組織を作り、きめ細かい連携がこれから動き出すきっかけが作れた。
  地域包括ケア病床に関しては、復帰できる患者は歓迎されるが、「必ず在宅に行けます」という患者しか受けられないなど、今はやや過敏になりすぎているかも知れない。これからどうなるのか。地域包括ケア病院の自己完結型になってしまうとまずいのではないか。だからこれでやっていけるという正確なデータの情報交換が必要になる。
  一口に地域と言うが、今、各行政、病院、大学、それぞれ違う地域の大きさを考えている。当院も、心臓外科は、先天性心疾患の重症患者さんの診療地域は愛知県全体と周辺3県(全部で20数%)と考えている。気管支喘息などの患者は病院の周辺2~3km以内から来るのが殆ど。このような状況をどのように愛知県がガイドラインに基づいて、協議会で病床数に結びつけるのかということになるのか考えると不安になる。扱っている疾患をきちんと診て正確な病床数を算定しないと、患者さんは不幸になりかねない。
  本日のスライドは予め提出したハンドアウトと少し変わったが、1ヵ月の間に多少進歩したということでお許しください。以上です。

〇上西:
 ありがとうございました。大都会での病院の話なので、現状いろいろ動き出しても、地域医療ビジョンについてまだ明確なところはない。私の所でも、地域41病院が集まって連携していろんな話をしているが、まだ具体的な内容がわからないので、どうしていいかわからない。大都会の場合は、同じような機能を持つ病院もある。
  やっかいなのは、医者の質、大学の規模もバラバラだったりすること。非常に難しいと思うが、先生方は今後どうするか、ご意見あれば。

〇絹川:
  今日は勉強させてもらうためにきたので、とりあえず、メッセージは格好つけ過ぎかもしれないが、「中京病院があるこの地域の医療は素晴らしいという評価をいただきたい」というキャッチフレーズをホームページに上げてある。この方針で努力して行きたい。

〇上西:
  ありがとうございました。

(了)

 

ページ上部へ

活動