日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第2回研究大会 開催報告
《ディスカッション》 |
熊本における医療需要予測と病床機能分化・連携 |
シンポジスト:松田晋哉、岩谷典学、赤星麻沙子、森孝志 |
〇副島:
先生方のご発表を踏まえ、これからディスカッションしたい。共同座長である武久先生は、飛行機のお時間があるため一足早く帰られた。
皆さんもまだいろいろな迷いや理解できていない部分が多々あるかと思うが、この機会に質問していただきたい。地域包括ケア病棟がこれから重要な病床のカテゴリーになっていくというのが皆さんの認識だろう。機能分化を進めるには、病床再編と連携のあり方を強化する以外にない。しかし連携をどういう形で作るかは、インフラを含めそれぞれの地域によっても異なるだろう。
そこでまず松田先生におききしたい。DPCデータ、あるいはナショナルデータベース、いわゆるビッグデータを利用できるということだが、それえらを行政サイドにも流し、県や市の担当者らがある程度自由に使えるようになっているのだろうか。
〇松田:
私たちは現在、DPCやナショナルデータベースのデータ、消防庁のデータ、医療人口推計等に関するデータなどを都道府県の担当者がインターラクティブに分析できるように、Excelのマクロを作って配っている。
それを使って研修会をやり、各都道府県の医療計画の担当者がそれを使いこなせるようにしていただく。それを各都道府県の裁量で関係者と病院に使ってもらう。データブックという形で毎年都道府県へ提供する。それを自分たちで活用していただく。
〇副島:
岩谷先生、データの利用に関していかがだろうか。
〇岩谷:
松田先生がご講演で示していただいた一部になるが、いろいろ資料を整理したものが提供されている。
すでに熊本県では、地域の担当者への研修会もやっているし、これから厚労省でも都道府県の担当者を集めた研修会が開かれると思う。
〇副島:
先ほど松田先生が、脳血管障害と肺炎、骨折ではありようが違うと指摘された。1回で終わるような疾患と長期間の疾患がある。我々も分析していて、在院日数をどのぐらいと読むかは、病床の確保の重要な部分であり、その疾患ごとに適正な在院日数など、そういうデータはあるのだろうか。それがないと疾患ごとの精緻な分析は難しいのではないだろうか。
〇松田:
DPCではもう作っていて公開されているが、問題はナショナルデータベース。現在、それをDPC用に加工して、それぞれの在院日数や受療率を計算しているので、間もなく出せるようになるだろう。
〇副島:
急性期はDPCのデータも使えるが、それ以降になるとかなりデータは不十分ではないだろうか。
〇松田:
慢性期も全部含めて、ナショナルデータベースのデータにあるロジックを展開してそれをDPC用に再編成しているので、来年それが出てくれば使える。
〇副島:
データを利用、解析するときに我々が困難だと思うことがある。連携するにしても、その後のトレースが極めて難しい。その理由は、統一番号がないこと。急性期、亜急性期、慢性期、介護という包括的な連携の中で、個々の患者の病態の変化や予後さえ追いかけることができない。
岩谷先生が医療情報ネットワークの話をされた。例えばマイナンバーなど、統一番号的な手法はプランの中に入っているか。
〇岩谷:
今、熊本で全県的に取り組む構想で進めている。そのためには、なんらかの識別方法が必要になる。では、それをどういうふうにするのか。
この点、セキュリティ面が大きな課題であり、例えば「どの部署がどこまで閲覧できるのか」「開示はどこまで可能か」など、クリアすべき要件がたくさんある。今回立ち上げた協議会で、この点についても十分議論していただきたい。
〇副島:
日本は、「ビッグデータを最も活用していない先進国」と言われている。すなわち、統一番号的なものがないので、行政効率もきわめて低く、かつ制度設計に十分な活用がなされていない。
今回は医療だけだが、福祉や介護のレベルになると、統一的番号がないと全くトレースできない。松田先生、そこについては何かあるか。介護、福祉と結びつけるためにどうしたらいいか。
〇松田:
全体でそれを作るのはまだ時間がかかると思うが、私たちが協力している所では自治体レベルでそういう運用をしている。いくつかテクニックは使うが、介護と医療のデータから抽出して共通番号を作り、それで1人を医療や介護とつないで分析する仕組みはできている。
ただ、個人情報の問題があるので私たちがそれをやるのではなく、加工するためのロジックを作り、マイナンバー的なものを自治体レベルで作るテクニックを使い、いくつかの自治体では医療と介護をつないで分析することはできている。
それをやると、例えば脳血管障害で入院した人が、その後どういうふうになっていくか、介護を含めて分析できる。運用を始めて5年になるが、やれている所はある。
そのプロジェクト自体は、厚労省老健局の地域包括ケアの事業でやっているので、いずれ一般化できるだろう。
〇副島:
大いに期待したい。我々の病棟では薬剤師が、個々の患者の持参薬を手作業でチェックしている。こういうことをやるのは日本だけではないか。保険による処方薬をわざわざ確認し直している。しかし、マイナンバーなら不要のはず。
そういった意味で、現場の負担をICTで解決できると思う。ICTがきちんとできていけば、連携に関するデータも精緻なものが取れるだろう。
基本的には、機能分化した病床区分でどういう患者をどこで誰がどの程度まで見るのかを決めておかないと将来予測が難しい。熊本は連携の歴史が長く、インフラがすでにある程度整っている地域であるため、地域包括ケア病棟の導入が比較的スムーズに進んだ。しかし、全国的には難しい地域が多くあるかもしれない。絹川先生、名古屋地域では地域包括ケアを導入する所は少ないように聞いているが、どうだろうか。
〇絹川:
問題はやはりそこにある。県の中でも、介護のITシステムは間違いなく2つ動き始める。いろんな都合でそうなっているが、ITの専門家はいるが行政側がなかなかそれを理解できないのが問題だと思っている。
〇副島:
その一方で、池端先生から「サイズが小さい」という問題も提起されている。その医療圏の中に小さいインフラしかなければ、もっと広域の医療圏という形を設定して、その中で地域完結という仕組みを作るのはどうか。現実にはそういう解決を探っていると思うが。
〇池端:
おっしゃる通り。すべて小さいサイズで完結させるのは無理。急性期でも種類によるが、自分の地域で対応できる患者像があり、いくつかのレベルに分けて、ケースごとに考えていく必要がある。在宅医療も含めて、自分の地域でできることと、できないことがあるので、それを見極めて対応策を講じていく。
人口が少ない地域では、広い範囲にわたる地域連携を構築するのは難しいので、ケースに応じてそれぞれの医療機関が担える役割を明確化し、それらをいわばパズルのように組み合わせて、最終的に地域連携ができている。
例えば、当院が持つ30床すべてを地域包括ケア病棟にしても、それに対応するニーズが周辺にあるかは疑問。そこが弱小県、人口が少ない所の難しさであり、細切れにしてやれるところをやるしかない。
しかし、将来的にはネットワークの拡大を考える必要があり、大きなくくりの中の1病棟を地域にいくつか点在させ、役割分担を明確にしながら全体を回すという形になるのが将来的な姿ではないか。
〇副島:
とかく「地域医療」「地域性」という議論になると、「地域」の定義が重要な論点になる。果たして「二次医療圏」という区分けが現実の医療提供と符号しているかと言われれば疑問が残る。現在の「二次医療圏」を単位とした医療提供体制で安心できるのかということになる。
松田先生が福岡県の例を挙げたが、「地域」の定義、特に「二次医療圏」について、現状をどう評価しているか。
〇松田:
住民の動きを前提に考える時期に来ている。行政区域で分けても実際にはそれを越えて患者は動く。従って、患者の動きに合わせた病期単位、病期のフェーズをクロスしながら、ある地域別に、その医療にアクセスするのは実際にどのくらいのアクセシビリティがあり、実際どこに行くのがいいのかを柔軟に考える仕組みにもっていくほうがいい。
「二次医療圏」という範囲を固定的に考えるのではなく、住民が住む所をベースにして、住民に対してこれをやっている医療機関はそこにあり、どのくらいで行けるのかという示し方をする。利用者の移動を前提に圏域を考える必要がある。
そうしないと、地域包括ケアで重要になる住の計画ができなくなるだろう。視点を変えることが求められている。そのための方法論をGISみたいなものを使いながら考えることがこれからの課題だろう。
〇副島:
県境の医療をどうするのかという問題も残る。行政区域で切ると、県境で救急車の乗せ換えをするという救急車らしからぬことが起こる。こういうことを改善するために、生活圏と医療圏が一致するような医療区分、医療圏の設定が重要になる。
本日、高橋先生にはそういう提言をしてもらったが、地域をどのように定義していくか。救急車で運べるくらいの範囲であれば、1つの医療圏として地域完結していくのではないか。
〇松田:
いろいろ分析していると、熊本は県南にもう1つセンターがあるほうがいい。八代にもう少し機能を持たせないと、鹿児島県北部と球磨の辺りがきつくなる。熊本に集中しすぎている。
加えて大きな問題は、菊池、阿蘇の道が細い。菊池、阿蘇からこちらに来るアクセスを考えなければならない。熊本の3つの病院が北部・西部・東部、これは正式にやっているが、長さを考えると八代に機能を持たせたい。
〇副島:
それを考えると集約化医療になる。既存のインフラをどのように集約するか、人口が減る地域に新たに高機能の病院を熊本市と同じように作るのかは異論が出るだろう。どの程度の二次的医療機関が必要か、とくにこれから人口が減る所でインフラをどう整備するか。使い倒すつもりで改修しながら使うのが、人口減少する地域の選択であり、上手な撤収になるのではないか。
我々の地域ではアライアンス連携を構築してきたので、今改定で地域包括ケア病棟が新設されても不安はなかった。経済的、診療報酬的に厳しいというほどでもなかった。森先生はいかがお考えだろうか。
〇森:
当初は年間2,700万円ぐらい収入が下がると試算した。結果的には大きなマイナスにはならなかったが、地域包括ケア病棟のさらなる評価が今後の課題といえる。
この地域では、当院が最初に地域包括を作ったのではなく、もっと早い時期から取り組んでいる病院が熊本市内にあった。市内にあるLTAC病院の集中度を見ても分かるように、それぞれの地域でどうやっていくかという意識が高い。
我々は地域包括ケア病棟を5月に作りたかったが、ついつい6月になってしまったのが残念だ。
〇副島:
今後LTACが拡大していく上で、誤嚥性肺炎などを急性期病院ではなくLTAC病院で診る仕組みを強化しなければいけない。サブアキュートは別のカテゴリーの診療報酬という提言だが、いくらぐらいならいいのか。
〇森:
例えば、済生会の呼吸器のカンファレンスに参加して、97歳で酸素何リッター、DNRって書いてある施設からの紹介患者さんの症例を見ると、この人は済生会熊本病院に居ていいのかなと思うことがある。うちの病院のかかりつけとか、当院に入院歴のある方だと救急隊からの連絡が入るので受け入れるが、高度急性期医療までは必要としない方をいかに地域で、それぞれの病院が役割分担をやり受け入れるか、サブアキュートをどう担うかが大事になる。点数については具体的な数字が思いつかない。ポストアキュートはかなり整備され、意識の中では出来上がっていると思う。
〇副島:
患者や家族の事前指定書のようなものがないと、「とりあえず急性期」という選択になる。患者、家族も含めて認識を変えなければLTACの機能が生きない。
〇池端:
熊本はドクターネットがよく回っているので、自宅等に復帰した場合にそこが動くと思う。そこに事前指定書などを取り入れて、コンセンサスを得ながら進めていくのが理想ではないかと思うが、どうだろう。
〇森:
昨年、熊本在宅ドクターネットでも話し合いを重ねて事前指定書を作った。当院も利用させて貰っている。当院が在宅医療との連携でお世話になったり紹介したりする先生方には、逆に紹介してもらうこともあるがまだまだ症例が少ない。むしろ、いろんな施設や特養等に出かけて、急変した場合はうちで受けましょうかという話ができれば、一番いいのかなと思う。
急性期病院の後方を支えるポストアキュートも必要だが、急性期病院に行かなくて済むようにサブアキュートでどう止めるかも大事。我々は、熊本在宅ドクターネットの中で“病院医師”として参加させて貰っている。病診連携を行いながら、「入院が必要になったら受け入れて診る」という立場だが、熊本在宅ドクターネットのクリニックの先生方にいかに医療的に信用してもらえるかが大事だと思っている。サブアキュートの医療をどう提供するか、その点を信頼してもらえるように更に努力していきたい。
〇副島:
まだまだご意見はあると思うが、時間になったのでここで閉めたい。シンポジウムにご参加の先生方、会場の皆様方、ありがとうございました。
〇総合司会武藤:
ありがとうございました。では、閉会のご挨拶を。
〇副島:
2回目のLTAC研究会も大盛況となった。役員の先生方、シンポジストの方々、ご支援いただいている会員の皆様のおかげであり、深く感謝する。
武久先生から、このような会議を違った形でも開催したいとの提言があった。LTAC研究会には、現場の意見を踏まえて政策提言に生かすという大きな目的がある。ぜひ、現場からの意見を入れて、データを活用しながら新しい情報発信ができるようにしていきたい。
本日は長時間にわたり、ありがとうございました。
最後に、来年の大会長から一言お願いしたい。
〇定光:
来年の第3回本研究会は、大阪で開催させていただく。開催日は、2015年9月26日の土曜日を予定している。
前日から開催するか当日1日のみするかは現在検討している。テーマについては、本日のご意見やご提言などを踏まえ、病床機能再編・分化の1年後の実態がどうなっているか、2016年度診療報酬改定を視野に入れつつ、医療の潮流がどうなっているかを把握するような内容を考えている。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
〇副島:
よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
(了)