日本長期急性期病床(LTAC)研究会 第2回研究大会 開催報告
《大会長講演》 |
日本型LTACを考える |
副島秀久(当研究会幹事、済生会熊本病院院長) |
〇副島:
第2回研究会会長を仰せつかりました済生会病院の副島です。昨日、懇親会にもたくさんお集まりいただきましてありがとうございました。昨年の大会も非常に盛況で、今回もたくさんの方にお集まり頂き感謝申し上げる。
LTACは地域包括ケアの一つのモデルだが、ちょうど今月で地域包括ケア病棟 届け出の締め切り、亜急性期病床の廃止となり、今の状況を測りかねている方もおられると思うが、重要な病床再編のタイミングで開催されるので、とりわけ関心が高いかと思う。
今日はいろんなテーマで議論をしていただく。研究会は学会と違い気楽に意見交換できる良いところがある。忌憚のないご意見、情報交換をお願いいたします。今日一日十二分にエンジョイしていただければと思う。よろしくお願いいたします。
○総合司会武藤:
皆さんおはようございます。今日は230人が会場にお集まりです。早速、副島先生の大会長講演を開始する。「日本型LTAC病棟を考える」というテーマである。それでは先生、どうぞよろしくお願いいたします。
〇副島:
高齢者で非常に重篤かつ複雑な病態を抱える患者さんをどうケアするかは、世界的にも問題となっている。AHAによるLTACの定義では「非常に重症な患者で多彩な合併症を持ち、かつ長く入院を必要とする患者のケア」となっており、2011年時点で、LTAC病院は436で、平均在院日数25日以上と規定されている。
Long Term Acute Careがあれば当然Short Term Acute Careというカテゴリーもあるわけで、STACはいわゆる急性期、高度急性期という位置づけで、救急・緊急処置あるいは、外傷とその手術、集中治療などがカテゴリーとして挙げられている。この中には、検査あるいは念のための入院、そういったものは原則として含まれていない。
スライドは、今年3月の日米ジョイントフォーラムでのピクラー教授の資料を借りてまとめたものだが、LTAC、リハビリ、スキルドナーシングケアに区分が分かれる。LTACは急性期という位置づけで、在院日数は25日、リハ病院は大体12~18日、スキルドナーシングはもっと長い。
LTACの医師は専門医、総合医で、リハは当然リハビリ医、スキルドナーシングは医師が大体週1回から月1回診療し、主にナースがケアをやる。重篤な患者はLTACに入るが、リハビリとスキルドナーシングは非常に重篤というわけではない。患者としては呼吸器、脳卒中、感染症などの加療後あるいは加療中で、リハビリは整形、脳外科の術後、スキルドナーシングは複雑でない整形の術後患者、人工呼吸などの管理はLTACは基本的に離脱を目標とし、リハビリはまれだが離脱プログラムがあり、スキルドナーシングは離脱より維持管理と、機能分担が一通りされている。
LTACのリハビリは約1時間、リハビリ病院では当然3時間、スキルドナーシングで1.5時間と規定されている。LTACに入院した患者の在宅復帰率は15%、180日以内の再入院率は1.3%、死亡率はかなり高くて59.7%、費用はSTACが7万ドル、LTACは4万ドル程度となる。
患者の入院経路は救急が28%、他の病院からの紹介が11%、あとは直接入院となる。この点は日本の地域包括ケア病棟と若干異なるところだ。LTACでは救急やサブアキュートの患者をかなり診ており、平均年齢は76.5歳なので、日本よりも数歳若いと思われる。
米国では、高齢化とともに医療費が高騰しており、直近では、米国の医療費19.6%でGDPのかなりの部分を占めつつある。日本も含め、世界的に医療費の問題は解決すべき大きな課題になりつつある。
日本は人口あたりの病床数が非常に多いのが特徴的で在院日数も長い。病床数は1980年代をピークに増加、それ以降減少しているが、他の諸外国の在院日数は一貫として下がっているのが現状だ。濃沼先生の「医療のグローバルスタンダード」によると、1965年頃の日本の平均在院日数はスウェーデンとイギリスの間くらいで、昔から長かったわけではない。病床機能の区分が明確にされなかったこと、出来高制度という医療制度の下で、ベッドを増やすと当然在院日数が長くなりがちだ。財政的な破綻が見えてきたので、在院日数を徐々に低下させ始めているが、まだ諸外国とは大きな差が見られる。さらに特徴的なことは、人口当たりの外来診察回数が諸外国の3倍~4倍で、アクセスが良すぎるのではないかと指摘されている。
2025年をターゲットイヤーとした医療介護機能の再編について述べる。社会保障と税の一体改革ではこういうシナリオが書かれており、高度急性期、一般急性期、亜急性期、それぞれ22万、46万、35万床となっている。ここで高度急性期の稼働率70%、在院日数15~16日だが、これはあり得るのかといろんな方に質問をしているが、この数字の根拠、出所は分からない。この日数は国際的に見ても非常に長く高度急性期、STACにしても長い。この数字がなぜ重要なのかと言えば、在院日数によって必要病床数が大きく変わるからだ。在院日数と病気の発生率の積で病床数が決まる。我々が今後どれくらいインフラを整備すればいいのかは在院日数で大きく変化する。この区分が本当に正確かどうか、後ほど議論、提案があるかと思うが、ここで間違うと今後40年近く間違い続けることになりかねない。
医療需要のピークが終わると、その先はむしろ介護系、在宅のボリュームを増やさないと大変なことになると推測される。中都市、大都市、地域、田舎の方ではそれぞれのインフラが異なり、異なったプランを用意する必要があるだろう。今後は、高度急性期にいきなり入院するのではなく、地域包括ケアに一部が入院、サブアキュート疾患の患者やポストアキュートも入院するという位置づけになり、地域包括ケア病棟の重要性は高まると考えられる。
熊本の状況についてお話しする。8月1日時点で把握した地域包括ケアを取得、もしくは申請している病院の数で、本県ではかなり出足は良かったと思う。こういう病床が今後は必要だと急性期側から申し出て、協議をした結果、熊本ではとくに動きが早かった。もともと連携が進んでいるからこそ機能分化も進みやすいと思う。
当院の患者がどのような流れで入院し、退院していくかを示す。退院患者の28.3%が転院、7割程度が自宅退院という構造だ。2013年度は転院数が3800、28%。転院率は在宅復帰率に大きく関係し、かつ疾患構造が大きく影響する。今回の在宅復帰率75%というラインでは転院率が高ければ当然厳しくなるし、転院率が低い所では軽々クリアできる。例えば眼科の入院が多いとか、皮膚科の入院が多いと復帰率は全く問題とならない。本来、家から来て家に帰れる疾患では、在宅復帰率の対象にはならない。
当院では、循環器、新生物、外傷、消化器、こういった疾患が退院の多くを占める。循環器系の疾患が一番多く、脳卒中、慢性心不全も含まれるが、大体3割が転院だ。緩和ケアで15%、新生物では自宅退院する人あるいは在宅への患者が比較的多い。骨折は約半分が転院するので、骨折を多く治療していると在宅復帰率75%は厳しくなる。また、嚥下性肺炎はボリューム自体小さいが半分弱が転院であり、転院率が高い疾患で呼吸器の治療が継続できる転院先をどのように確保するかが課題だ。
今までのように急性期だけを考えればいい状況ではなくなり、今後は亜急性期、慢性期、療養、在宅、介護、そういったことを含めて実体を伴った包括的かつ連続的なケアが求められる。従って在宅復帰率75%という数字にどこまで妥当性があるかは、疾患構造の検討が必要で、軽微な疾患をやっている所ほど容易に達成できるので、制度的な目的を達成するためには今後若干の修正が必要と思われる。
我々の病院から転院する相手方の大体50%を11施設が担っている。全部で253施設の転院先があるが、わずか11施設でほぼ半分の方が転院している。その理由は、単一の疾患を持つ人はわずか5%で、多くの併存疾患を持ち退院するので転院先にもある程度の医療レベルが必要となる。特に高血圧、糖尿病、心不全、この三つで併存症全体の3分の1を占めるので、これに加え脂質異常、認知症などの管理ができないと適切な治療ができない。地域包括ケアの今後の重要なポイントは、誰が主体的に診るかであり、総合診療医の位置づけが重要になる。総合医制度が日本になかったので、いろんな局面で厳しい状況を生みつつある。総合病院が必要だったのではなく、本当は総合医が必要だったのだ。
昨日見学して頂いた平成とうや病院は移転のときから相談を受けて、一つのモデルをつくろうとやってきた。我々も今後は地域完結しか生きる道はないことを、こうした連携を深める以前から認識をしていた。
平成とうや病院では、転入院が360人で、当院に戻ってくる人が6.9%、その他の急性期病院に0.5%、介護施設4.8%、亡くなる方が1.8%。自宅復帰78.4、療養8%である。患者層では整形、脳外科、神経内科のボリュームが多い。今後、地域包括ケア病棟あるいは病床を持つ医療機関は、得意な部分を確立して特徴を出し、継続性を確保する必要があるかと思う。
平成とうや病院は運動器、脳血管、廃用性、こういった所が得意分野だ。平成とうや病院での在院日数は、今後のインフラ整備をどの程度必要とするかの推計にもつながる。在宅復帰率は脳血管で66%、運動器91%、廃用症候群は72%という結果だが、1月から6月と、7月から12月を比較すると、在宅復帰率が2%上昇している。今までは直接かかりつけ医の先生とか回復期病棟に行っていた患者もLTACができれば、ここである程度クッションを置き、次に回復期や診療所の先生に診てもらう構造が出来上がる。
本年4月1日時点と10月1日時点の病床区分はどのように変化したかを見ると、一般病棟は我々がアライアンスとしている2,111病床の内訳で一般病床28%、亜急性期は4%、回復期20%だったが、地域包括ケアの申請が始まり、一般病床は8%減、地域包括ケアが亜急性期を含めて13%、回復期は18%と変わり、病床の移動が見られる。
これは今まで我々が把握した時点での予測値あり、一方で我々も在宅復帰率を上げているため、自宅へ直接帰る患者も増えており、今後は転院総数自体は減っていくと考えられる。
必要病床の推計は、DPCのデータ、ナショナルデータベースなどのデータを使い、試算を地域ごとに正確におこなう必要がある。この地域ではどの位病床が必要かを考え、平成とうや病院のデータから血管、外傷、呼吸器、それぞれの平均在院日数を参考に推計してみた。必要病床数は1日当たりの患者発生数×平均在院日数÷予測稼働率。この稼働率も病床数に関係するが、一番影響するのは平均在院日数で、地域にどれくらいのインフラが必要かを推計できる。現在の在院日数だと当院から脳血管障害の転院を受け入れてもらうためには地域に296床必要となりる。
以上をまとめると、平均在院数10日、復帰率70%として、急性期病床1床に対し、亜急性期は1.875床が必要で、療養は平均在院日数180日と設定すると1.585の病床が要る。これは厚労省が出した高度急性期18万床から一般急性期35万、療養28万床と大体似ている。これをさらに精緻に地域ごとに計算をして地域医療ビジョンが策定されるだろう。
各県ごとに病床の届出制度がスタートするが、情報がないまま選択するのは難しくリスクも高い。地域ごとに病床の必要数を計算して情報提供しないと、ミスマッチが生じる。
また、医師の多くが急性期病院の医師、専門医として教育されてきたが、今後は急性期というより包括的な医療の体系の中では、専門医はそれほど大きな位置を占めなくなる。むしろ地域包括ケアはいろんな所とつながっており、そのハブ的な病棟と総合医の重要性が今後は増すだろう。
スライドは全国の二次医療圏の人口分布だが、このように大きくばらついており、医療政策を論じる時に二次医療圏を前提とした議論は破綻している。熊本の二次医療圏は熊本が圧倒的に多くて他は非常に小さく、これを一つの土俵で議論するのはいかにも乱暴で、今後の医療インフラ整備においても大きな推計ミスになり続ける可能性が高い。
熊本の救急医療連携体制は非常に良くできているは、市の南部に当院があり東に日赤、北に国立と地政学的な配置が絶妙である。とくに救急車の搬送元の分布を見ると生活圏と医療圏がほぼ合致しており(救急患者があえて遠くの病院を希望することは少ないので)、こうした形で医療圏を設定し直すのも一つの現実的な方法と言える。
今後、「地域包括ケア病棟・病床」を含め「病床区分」がどのように変化していくか、転院のフローがどのように変化するか、今後のデータを待ちたい。これは病床機能報告制度と関連するだけでなく、とりわけ重要なことは、2025年までに我々が安心できる医療提供体制、インフラ、人材育成を、地域性、アクセシビリティーを含めてどのように整理するかの論点になると思われる。以上、これからの議論の前振りとしての会長講演を終わる。
ご静聴ありがとうございました。
〇武藤:
全国版のLTACや熊本の現状、それを踏まえて今後、日本版のLTACをどのように展開していくか、非常に示唆に富む内容でした。副島先生、どうもありがとうございました。
(了)